いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】ホーンテッドマンションのイメージの起源とは? 「『幽霊屋敷』の文化史」

東京ディズニーリゾートには評者も何度か行ったことあるが、その中でも「ランド」内にある「ホーンテッドマンション」は、そのおどろおどろしい雰囲気において園内でひときわ異彩を放っている。のちに「シー」にも「タワー・オブ・テラー」が登場するが、両者に敷衍するのが、ゴシック様式である。本書はホーンテッドマンションと、かのアトラクションに醸し出されるゴシック様式について、文化史的に追った新書である。

「幽霊屋敷」の文化史 (講談社現代新書)

「幽霊屋敷」の文化史 (講談社現代新書)

話は建築にとどまらない。キリスト教圏においては元々その存在が認められなかった幽霊が物語の中に初めて登場し、恐怖小説として成立したゴシックストーリー、恐怖が娯楽になった19世紀のファンタスマゴリー、蝋人形館など、どこかキッチュでどこかいかがわしいゴシックのイメージの構築が、いかにしてなされたかが語られていく。本書を読むと、もともとゴシックとは中世の建築様式にすぎず、我々が使う意味での「ゴシック」のイメージは、古の文人たちが文学とゴシックを接合したときに生まれたものであったことがわかる。

中盤にかけてのゴシック的意匠の文化的変遷をめぐる議論は、弱冠ホーンテッドマンションから離れ、また他の研究者の研究を参照しているだけのためか少々退屈だが、ここまで「ゴシック」が敷衍した昨今、教養としてなんらかの意味を持つだろう。

20世紀にまでたどり着き、ようやく冒頭のホーンテッドマンションの話に戻ってくる。その仕掛けからモチーフまで何からなにまで0から構築したカリフォルニアでのデザイナーたちの切磋琢磨も興味深いが、それがフロリダ、東京、ヨーロッパのディズニーリゾートにどのように移植されていったかの違いも面白い。

もしあなたが次にホーンテッドマンションを訪れるとき、これを読んで頭に叩き込んでおけば、長い待ち時間にガールフレンドの機嫌を損ねることもないだろう。