ヒュー・ジャックマンが伝説的なサーカスの興行師、P・T・バーナムに扮する映画「グレイテスト・ショーマン」は、観る者が自身の人生を全肯定されるかのような解放感と高揚に満ちた映画です。
ミュージカルなので当然ですが、なんといっても楽曲がイイ。音楽を手がけたのは、「ラ・ラ・ランド」でもタッグを組んだベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビ。本作では公式が主要曲のほとんどをYouTubeで公開するという思い切ったことをしていますが、自信の現れでしょう。ここで聴いて「曲がいい!」と思った人はまず間違いなく観に行ったほうがいいです。映像を通してもっと好きになると思います。
冒頭で早速かかるその名も「グレイテスト・ショーマン」で一気に心をつかまれます。つかみがOKどころか、パーフェクト。オープニングからドーンとアガるのは「ラ・ラ・ランド」も同様です。
貧しい生まれながら、夢を捨てなかったバーナムは「地上最大のショウ」設立にまでたどり着く。それまで社会から差別されてきた変わり者たち(髭の生えた歌姫、移民、小人、顔まで毛むくじゃらの男、全身入れ墨だらけ、200㎏を超えるデブ、200㎝以上の大男、結合双生児などなど)を集めたショーは、批評家から「まがい物」「ペテン」との誹りを受けながらも、大衆の人気を勝ち取っていきます。バーナムのステージの上では、彼らを社会的弱者たらしめていた要因(見た目の奇形など)そのものが、観客を魅了するチャームポイントに反転したのです。
本作はミュージカルということもありますが、何よりテンポがいいです。監督のマイケル・グレイシーさんは、これが初監督作品というので驚きです。テンポの良さも相まって、細かいところは「まあいいか」となる点でプラスに働いていると思います。
一方で、今作は実際のバーナムをあまりに美化しすぎであるとの批判にも晒されています。例えば、アフリカでの象に対する所業は虐待と言われても仕方がないのですが、本作では描かれていません。舞台は19世紀ですし、本作で描かれるバーナムはかなり「リベラル化」していることは留意しておいてもよいでしょう。
The Greatest Showman has also drawn criticism for sugar-coating Barnum's story.
「グレイテスト・ショーマン」はバーナムの物語を美化しているとの批判を浴びている。Away from the spotlight Barnum had a dark side more shocking than any of his 'freak show' attractions.
スポットライトの当たらないところで、彼には「フリークショー」以上にショッキングな暗い側面があった。
その他にも事実の相違は散見するようです。ここまで素晴らしい作品なら、なぜ実在の人物にしなければならなかったのだろう。オリジナルキャラクターでよかったのでは? という気がしなくもありません。
バーナムはついにはイギリス、エリザベス女王に謁見するまでの地位を獲得しますが、さらなる成功を追い求めていくうち、ショーのメンバーとの間に軋轢を生みます。成り上がった者が一転、それまでの仲間を疎ましく思い始めるのは、人間の仄暗い一面です。そこから物語は大きく動いていきます。
そして、ここぞとばかりにかかるのが、カーラ・セトル(髭の歌姫)が歌う主題歌「This Is Me」。私は私のリズムで突き進む――カーラの歌声は鳥肌ものですが、流れる文脈も完璧で思わず熱いものがこみ上げてきます。
懸念されるのは、「ミュージカル嫌い」もこの社会には一定数いることです。そういう人も一度、「MV集」だと思って観に行きましょう。
また、予告編からでもヒシヒシと伝わってくる「テンションが高い」のに尻込みしている人もいるでしょう。「テンションが高い」のは間違いないですが、ぼくに言わせればこの映画はむしろ、自分は独りぼっちだとか、社会に適応できないと悩んでいる気持ちの落ち込んでいる人ほど見るべき。すべての存在を肯定してくれる「This Is Me」は「ぼくたち」の歌なのです。