文芸評論家、齋藤美奈子のエッセイ集、『あほらし屋の鐘が鳴る』の文庫化。前半「おじさんマインド研究」と後半「女性誌探訪」によって構成されている。前者は雑誌『pink』誌上での連載、後者が雑誌『uno!』誌上での連載を再構成したものだ。

- 作者: 斎藤美奈子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1999/01
- メディア: 単行本
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軽妙な文体で核心を突くのはおなじみの「齋藤節」だが、かつて『男性誌探訪』でも見せた氏の「おじさん」叩きは特に毒っ気が強い。「不倫は文化」の思想(?)にただよう性差別をめぐる指摘や、ATMをめぐるユニークなアプローチのジェンダー論は、なるほど齋藤氏ならではの切れ味だ。「判事のオッズ」という章での力説は、言い方は古めかしいが「近代的個人」とはこの人のような人をいうのだろうなと思わされてしまう。ただ、宮崎駿批判や小林よしのり批判は、単なる個人の好みの域を出ていないようにも思えるが…。
もっとも、ここまでだと彼女の本を初めて手に取った読者には、「口が上手いフェミおばさん」と勘違いされそうだが、その印象は後半「女性誌探訪」にて覆されるだろう。
後半の女性誌探訪を読むと、氏の矛先はときに「女の子」にだって向くことがわかる。ショッピングとコスメと占いばかりにかまけている女性誌にだって、あほらし屋の鐘は鳴り響くのだ。かーん。
偶然ながら、本書の元の記事が連載されていた『pink』と『uno!』はともに休刊したとのこと。本文中では『CREA』が生き残るために低俗化したことを嘆かれているが、両誌が時流に乗って低俗でくだらない内容を垂れ流し続けていたなら、もしかしたら両誌は生き残っていたのかもしれない。これが、齋藤美奈子氏の毒のある(そしてちょびっとためになる)エッセイのようなものを乗せる編集方針では生き残れないことの証左だとしたら、あまりにも悲しすぎる。