いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】解放感に満ちた未来予想図 あなたはどう読む?「お金2.0 新しい経済のルールと生き方」

すでに意識高い系界隈を中心に大いに盛り上がっており、遅すぎるぐらいだけれど読んでみた。
本書は時間を売買するという奇想天外なアイデアの「タイムバンク」を運営するメタップス社長、佐藤航陽氏による「お金」についての本。近年話題になっている、フィンテックビットコイン、AI、評価経済、シェアリングエコノミーなどをわかりやすく解説している。

ただしそれは、「これらを利用したら上手くお金儲けができるぞ」といった類の趣旨ではない。そもそもお金を増やす=「儲ける」ことを第一とする生き方自体が、著者に言わせれば未来には廃れていくか、もしくは相対的に価値が下がっていくだろう、というのだ。

著者は、テクノロジーが「お金」の概念そのものを変えてしまう、という。これまでの資本主義は「国」が信用を与えた「通貨」によって回っていたが、テクノロジーの発展によって複数の経済圏が生まれ、個人はその複数の経済圏を行き来できるようになる、というのだ。ここでいう「経済圏」とは、ドル⇔円、円⇔ユーロといった貨幣間の往来のことではない。企業や団体、もしくは個人が各々に自前の経済圏を作る「経済そのものの民主化」が起き、既存の「お金」の価値が相対的に低くなっていくということだ。

そしてゆくゆくは、今まで「お金にはならないけど価値のあるもの」、例えばある人がオーディエンスから集めた興味・共感・好意という感情までが、「お金」にとって代わる、という。
でもそれは絵空事でもなんでもない。現に動画の生配信で実現はしているし、中国ではもっと先鋭的な形で実現していることを、本書は例示している。


この本を読んでみて、有用な情報や知識よりなによりも、何かから解放された高揚感でもいうような名の「感情」を覚えた。オラオラ系イット会社の社長にありがちな「もうそれは古い!」「オワコン!」「これがわからん奴ははよ氏ね」などといった選民意識をくすぐる煽りは、かえってゲンナリさせられる。一方本書は、著者の、あるいは編集者の資質なのだろうがそれがない。あくまでも「こんなオルタナティヴもあるよね〜」と読者を優しくいざなう。よくいえばポジティブ、悪く言えば楽天的であるが、「こういう未来になったらいいなあ」という気持ちになることは確かである。テレビでニュースをつけても、ツイッターを覗いても、嫌なことばっかりが目に入ってくる昨今である。なんかもっと楽しそうな情報はないんかいと思っているあなたにはうってつけである。

一方で、読んだ上で本書の内容を「いかがわしい」と思う人がいるのももっともである。その真価は20年後、30年後になってみないとわからないだろう。そのときに「未来を見据えていた先見の書」と評されるか、「狂人が著した紙きれ」に成り下がるか。それまでにはまだまだ猶予があり、自らの手でいろいろ模索してみるのも悪くない。