- 作者: いけだたかし
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2012/02/20
- メディア: コミック
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ぼくは一時期ニートだった経験があるが、いま真っ当に働いている(振りをしている)身からすると、あれはなかなか得がたい経験だったと思う。
本作、いけだたかしによる『34歳無職さん』を読んでいると、そんなニート時代の「得がたい経験」がフラッシュバックしてくる。34歳にして務めていた会社がなくなり、本人にもいろいろ思うところがあって1年間の期間限定で無職で過ごしてみようと思った女性の姿を、のほほんとしたトーンで描いていく。月刊コミックフラッパーで連載中とのこと。
「得がたい経験」とは、いうならば実生活の「倍率」が上がるということだ。働いてもおらず、学ぶ身でもないため、「世界」が狭くなっていき、何気ないところが異常に目に止まりやすくなるのだ。
朝のゴミ出しを寝坊してすっぽかす、使っていると倒れてしまう絶妙にバランスの悪い掃除機、などなど。無職さんは身の回りのちょっとしたことにこだわり、一喜一憂する。
本作の多くを占めるのは、そんな無職さんの「暮らしあるある」である。けれどそれは別に、話を作るのが難しくて苦し紛れにそういう細かいところにスポットを当てているのではない。無職≒ニートになったら、アレぐらいの倍率で実生活に注意が向くのである。
本作は「無職」を否定したいわけでも、肯定したいわけでもない。転職活動をしているわけでもないから、過度な悲壮感もない。社会から隔絶されていることには不安を覚えることもあるが、隔絶されているからこそ得られる気楽さも、同時にある。ようは、そのときの気分でどうとでも転ぶわけ。これもよくわかる。
いわゆる「日常系」のようにも思えるユルさだけど、それだけでは片付けられない程度には本人はある過去をめぐる葛藤があり、見逃せない。自分がまさか無職なんかに……と思う人はこれで無職をバーチャルに体験してみてはどうだろうか。