いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ルーム

自分が「すべて」だと思い込んでいた世界が、実は偏狭で、いかにちっぽけな「囲い」でしかなかったかを思い知らされたことが何度かあります。それはまるで、自分が現実だと思い込んでいた世界が、バーチャルリアリティであることに気づいた映画「マトリックス」のネオのように。

けれどその経験は、ただ単に耐え難い、がっかりするだけのものではありません。いままで自分が「すべて」だと思っていたものが「すべて」でないとわかったことで、かえって底抜けの開放感に包まれることもある。

本作「ルーム」は、そんな開放感を思い出させてくれる一作です。6年もの歳月を納屋に監禁されていた少女ジョイと、そこで生まれた彼女の息子ジャックを描いた壮絶な作品です。

5歳のジャックにとって、生まれた頃からいままで世界とは納屋の中だけです。テレビの中には薄っぺらい異次元がひろがり、ちいさな天窓からみえるのは「宇宙」のみ。彼はそんな「世界」で、大好きなお母さんとふたりぼっちです。

けれど、それが偽りの「世界」であることを彼は知ることになります。ジョイが仕掛けた一か八かの作戦で、ついにジャックは「世界」の外を知ることとなる。

ここから作品は、映画史上にものこるような高揚感を残す名シーンへと移ります。本来ジャックは、恐ろしい、ともすれば殺されてもおかしくない危険な状況に身を置くことになるのですが、にもかかわらず、彼のまぶしそうな表情と彼が初めて直に見上げることとなる青空のカットバックは、観客に不思議な高揚感をもたらします。こうして彼は生まれ直したのです。

無事に本当の世界を取り戻したふたり。けれど6年の歳月の空白は、さまざまな障害を残します。そこで直面する若い母親と幼い息子が直面するものとは…。本作はぜひぜひ劇場で観てもらいたいです。