いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ロスト・リバー

ライアン・ゴズリング監督第1作。滅び行く街を舞台に、貧しい家族とそこを牛耳る者、そしてその街の下に沈む謎をめぐる物語である。

ロケには米デトロイトが選ばれたそうで。かつて自動車産業で名を馳せたデトロイトだが、現実にも経済が破綻したことで有名だ。デトロイトが選ばれたのは、廃墟たちならぶ町並みが、作品世界とも共鳴していることから伺える。

ただ、実際のところ本作が舞台を「デトロイト」であると明示する瞬間はない。あくまでも舞台は名もない「廃墟とかした街」「誰もいなくなった街」である。

そうしたあいまいな舞台設定が、作品全体に観念的、寓話的な世界観を醸し出している気がする。言うならば本作は、「今」である可能性もあれば、「過去」の可能性もあり、また同時に「未来」の可能性も残している。そんな不思議な世界観である。途中、家のローン問題が出てきたあたりでサブプライム問題とかそのへんの時事性を絡めたのかとも思ったが、どうもそちらは本筋ではないらしい。

主人公のボーンズはこの街に住む青年だ。家は貧しく、家賃の滞納気味な母親ビリーを助けるため、屑鉄拾いに明け暮れているが、そこで湖の街を牛耳らんとするブリーの目をつけられてしまう。またビリーのほうも、我が子を養うために"夜の仕事"に就くことになる。

実は予告を観た当初は、正直な話をすれば嫌な予感がしていて、「雰囲気だけじゃねーか?」みたいな悪寒がしていたのであるが、それは杞憂に終わった。

ストーリーは、ピッチリカッチリとパズルがはまっていくような爽快感はなく、ボンヤリしている。けれど、そうしたストーリーが、先述したような観念的、寓話的な世界観とマッチしていて、気にならない。それは、撮影監督のブノワ・デビエがかつて手がけた「スプリング・ブレイカーズ」に似ているところでもある。

作中にはところどころに「うわっ」となる描写があって、やっぱりというかなんというか、ニコラス・ウィンディング・レフン監督(+ちょっとテリー・ギリアム)の多大なる影響を受けていることはわかる。

ぼくが一番好きなのは、ボーンズとブリーが初遭遇する場面だ。

ここまであからさまに、残酷に、美しく描かれた敵意もなかなかない。シーンで言えば今年観た中でいちばんだ。

なにはともわれ、当代随一の実力派若手俳優の初監督作である。見ないでおく手はないだろう。