いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】マップ・トゥ・ザ・スターズ

ハリウッドといえば、おなじみ「ハリウッドサイン」に始まり、健康的な日差しに照らされ、夢にみちた「映画の殿堂」というイメージがある。
が、どんな飯も不味く見えるように撮影するという特殊能力のある人いるように、デヴィッド・クローネンバーグが撮ると、ハリウッドであろうと「不穏な街」になる。ハリウッドスターが精神を病むのもわかる気がしてくる。
本作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』は、クローネンバーグが初めてアメリカで撮った作品。ハリウッドのセレブリティたちの群像劇で、富裕層と彼らの住まう無機質な空間を皮肉たっぷりに描くという意味では、前作『コズモポリス』を継承している。


作品は、ある3人の登場人物の視点をめぐって展開される。
一人はフロリダからやってきた若い女アガサ(ミア・ワシコウスカ)で、セレブに憧れる典型的なミーハーと思われた彼女だが実はもうひとつ、ある目的をもっている。
もう一人は、若くして人気者になったものの、麻薬中毒で騒動を起こすなど、お騒がせ者の子役のベンジ(エヴァン・バード)。
そして最後の一人が、亡くなった大女優を母に持ち、そのリメイク作への出演をめぐって気をもんでいる女優のハヴァナ(ジュリアン・ムーア)。とくにこのハヴァナが強烈で、嫉妬と憎悪にまみれながら、ヘンテコなカウンセリングを受けて辛うじて正気を保っている。


最初は無関係にみえた3人だが、徐々に接近していくことで、ストーリーは新たな展開を見せ始める。
劇中でたびたび暗唱される「君の名を書く」という印象的な詩は、実在したフランスの詩人ポール・エリュアールによる「自由」
ナチ占領下のパリで自由について綴った内容だが、本作ではある2人の人物につながりがあることが暗示されるアイテムとなる。
そして、その2人の繋がりによって暴かれるのが、ハリウッドのド派手な一家に隠された、とある忌まわしい秘密だ(ただ、この秘密については、じゃあなんでお前ら一緒に住んでんだ?とか、そのへんの詳細の説明が不足しているように見えるのだが……)。

米国での撮影が初めてというが、その他に監督の映画に幽霊が出てくるのも初めてらしい。そんな意味で、ちょっと変わった作品ではあるのだが、それでもやっぱり、この監督ならではの人間というか人体の改変へのフェチが、ようやく最後のほうで顔を出す。


先述したように『コズモポリス』の流れを継承してはいるが、抽象的、観念的で、原作を知らないと何を言いたいのかさっぱりわからないあの作品に比べると、ストーリー性があり、十二分に鑑賞に耐えうる一本になっている。