- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2015/07/02
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こんなお話
マゾッホの小説『毛皮を着たヴィーナス』を翻案にした新作劇を手掛ける演出家・トマは、主役のワンダ役のオーディションに応募してきた女優たちに失望し、劇の行く末を悲観していた。
トマが劇場を去ろうとしていた嵐の夜、奇しくも同じワンダを名に持つ無名女優ワンダ・ジュルダンが現れる。オーディション参加を希望する彼女に半ば強引に巻き込まれたトマは、自ら相手役となり、彼女の演技を目の当たりにすることになるのだが……。
ロマン・ポランスキーによる新作映画は、前作『おとなのけんか』に続き、戯曲を原作にし、ほとんど全カットが同じシチュエーションで撮影されるという構造をとる二人芝居。
年齢不詳系女子エマニュエル・セニエの妖艶
最初は嫌々付き合っていたトマだが、ワンダの演技力と、その妖艶な存在感に次第に引き込まれていく。
ワンダ=ワンダを演じたエマニュエル・セニエという女優は、何を隠そうポランスキーの妻だが、このキャスティングは適役だ。
嵐の夜に突然やってくるというシチュエーションが示すよう、ワンダは浮世離れした存在であるが、それを演じるのに年齢不詳なセニエは似合っている。さすがに20代前半には見えないが、30代でも十分通じる肌艶をしている(このあと実年齢を調べてびっくりした)。
彼女が演じることで、「この世の者じゃない」感を際立っている(だからってホラーではないよ)。
SMが描きたいのはわかったけどさあ……
トマの書き上げた脚本を実際に演じて検分していく二人の間を、虚構と現実がスリリングに交差していく。そして、次第に虚構の方が現実を侵食していき、完全に優位を築いたとき、二人の間に虚構の中から飛び出した支配―従属(SM)の関係が顕在化する。
支配―従属の関係に着目するというのはなかなか興味深いのだが、惜しむらくは、そこから考察があまり深まっていかず、展開としても停滞してしまうところだ。
いわゆる「主人と奴隷の弁証法」で、主人と奴隷は一方的な関係ではなく、お互いがお互いを補完する共犯関係だ、といいたいのはわかる。脚本家=(舞台の)支配者であるはずのトマが、女優=(舞台上での)奴隷といえるワンダに翻弄されるのは、そういうことだろう。
だが、トマは結構導入の部分でワンダに手玉にとられているため、そこに意外性が感じられない。
また、『おとなのけんか』と同様にほとんど会話のみで話が進行していくが、あの作品のようなコメディ要素がない分、少々退屈になってしまうことも否めない。
とにもかくにも、妖艶な女優エマニュエル・セニエが、撮影ではいいように操られる監督ロマン・ポランスキーを、家庭内で奴隷のように扱っていると想像すると、ワクワクしてくるのである(なんのこっちゃ)。