いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】泣く男 95点

泣く男といっても、

この人ではなく、

この人(泣いてないじゃん……)。

チャン・ドンゴン主演のバイオレンスアクション。見終わったあとでじんわり効いてくるタイトルだが、原題"우는 남자"をGoogle先生に聞いたところ「直訳だぞ」と言われ、ああこれも向こうの人のセンスかと驚かされた『泣く男』。すごい映画だった。

最初はドンゴン演じる殺し屋・ゴンの"仕事"の場面。この時点で「あっ、この映画ガチだな」と思わされる、シャープでいて容赦無いガンアクションがすごい。気に食わない奴には問答無用でヘッドショット食らわしそうなゴンのキレキレの三白眼が物語るように、映画は全編にわたり、画面に映る人物が次の瞬間には死んでいてもおかしくない緊迫感が張り巡らされている


完璧だったはずの仕事は、か弱い少女を誤射したことからあらぬ方向へと転がり始める。依頼元のアメリカのマフィアから、少女の母親が持つとある重大なデータの奪還と、母親の殺害を命じられたドンは、ソウルへと向かう。

母親モギョンを演じるのは、やや松嶋菜々子風味が入ったキム・ミニという女優。このモギョンが、娘が死んだというのにおかしいくらいにツンツンしていて、観客はあれ〜? と思う箇所だが、もちろんこれは虚勢を張っているだけなのだ。
巧みなのは、死んだ娘への彼女の感情が堰を切ったかのように爆発する場面が、殺戮者としてのゴンのその後の生き方を決定づける場面になっている、ということだ。最初に冷たそうな彼女の姿を見せられただけに、観客はよけい彼女の人間味に惹きつけられる。韓国映画で大の大人がむせび泣くシーンには、これまでどこか感情移入しづらいものを感じていたが、このシーンにはしびれた。


後半からは逃走パート。とはいっても、ゴン自身はモギョンにとって娘の"敵役"でもあるわけで、彼はあくまでも影から、彼女の追っ手の前に鬼神のごとく立ちふさがる。
アメリカから送られて来たという凄腕の傭兵たちと繰り広げる凄まじいガンアクション、格闘はハリウッドも顔負けで、そういう見せ方があるのか! という場面が幾重にもある。
こういう映画を見てしまうと、ことにアクション映画に関しては、日本にとってのアメリカと韓国にとってのアメリカというのは、全然ちがうものなのだろうなぁということを痛感する。日本にとってはただただ模倣するもの(そしてその多くが猿真似に終始する……)だが、もはや韓国にとっては取り込み、そして乗り越えていくものなのではないか?


そして大団円。ゴンが彼なりにつけようとした「落とし前」は、道義的にも、そして、ストーリー上の落とし所としても見事。
畳み掛けるラストシーンでは、ゴン自身の過去への「落とし前」が付けられる。こんな悲しいヒーローがかつていただろうか。