いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】早熟のアイオワ


早熟のアイオワ DVD

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ジェニファー・ローレンスクロエ・グレース・モレッツが共演と聞くと、今やとんでもない豪華な陣容だが、2008年の作品とすれば話は変わってくるだろう。ティーンエージャーのローレンス、まだ小学生のモレッツが初々しい演技を見せている作品。
クロエのかわいさが核兵器級なのは間違いないが、本質的には端役にすぎない。やはりこの映画は14歳の少女アグネスを演じるローレンスが、抜群に光っている。


舞台は1970年代のアイオワの貧民街。アグネスは2人の妹とともに、母親の売春や空き瓶を集めたお金でなんとか生きながらえている。彼女らの住まいは、母親にとって「仕事場」でもあるポーカーハウスといい、ポン引きや客、ドラッグの売人までもが出入りし、パトカーが見回りに来るまで夜毎パーティーが続くという最悪の環境。母親は、長女で年頃のアグネスにまで体を売れと強要してくる。14歳にとってあまりにも過酷な現実だ。


「神も仏もない」という表現があるが、3姉妹の元から去った暴力的な父親が宣教師であったという背景設定や、アグネスが繰り返し口ずさむ詩によって映画が重奏に伝えてくるのはまさに「この世界に神はいない」という現実だ。一神教に馴染みが薄い日本人には計り知れないほどに、それは過酷な世界なのである。


アグネスには夢があるし、将来を嘱望される才能だってある。勝手に客をとったことで殴られ、それでもポン引きの言いなりであり続ける母親のような女にはなりたくないのだ。


そんな彼女に、さらなる無慈悲な展開が待っている。信頼しかけた相手に、最悪の形で裏切られるのである。
神にも見放され、なおかつ正気を失ってしまいそうなほど辛い現実を前にして、それでも彼女を繋ぎ止めるのは何か。「神はいない」けれど、それでも妹たちや自分に期待し声援をくれる人はいる。そうした人たちに見守られながら、自分で人生を切り開くしかないということを彼女は悟るのである。


クライマックスで3姉妹がノリノリで歌うマービン・ゲイ&タミー・テレルの"Ain't No Mountain High Enough"が、めちゃくちゃかっこいいし、たくましく生きていかなくちゃならない彼女らにすごくマッチしている。


(歌詞もいい。邦訳はいっぱい転がっているけど例えばこちらなんてどうぞ)


根本的に彼女らの問題は解決されていなくて、たぶん前途は多難だけれど、それでもどこかかすかな希望が降り注ぐような終幕。
エンドロール前に意外な事実が紹介される。これを知らずにみたぼくは、結構驚いた。こんなカッコイイ"BASED ON A TRUE STORY"も中々ないだろう。