いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。


戦略PRプランナーの本田哲也氏と、世界5億人ユーザーを突破した(←勘違い。26日時点ではまだ確定ではない)LINEの執行役員田端信太郎氏による共著。
長いタイトルが印象的。「もうあきらめなさい。」である。玩具がほしいとだだをこねていた子どもでも一発で諦めてしまうような、そんな絶対的な揺るぎなさを感じる。
けれども、タイトルが言わんとしていることは、日頃からネットにどっぷり浸かり、そこで起きている現象に触れている人なら直感的に分かるのではないか。情報が受けての側に取捨選択されるようになった現代において、人をメディアを通じて動かすことの不可能性と、その先でやっぱり人を動かしている現象について、論じている。


パート1では田端氏がマスメディアを使って人を動かすことが、本書の比喩でいうところの「ドライバー1本でホールインワンを目指す」ほど困難なことになった現状を分析し、パート2でそれでも何千、何万の人を動員している活動、イベントを解説した上で2人でそれらを品評、そしてパート3で本田氏が、広告やメディアで人を動かすことを「どのようにあきらめないか」が論じられている、という構成。

パート1では、本書タイトルのいわば「表の意味」が解説される。録画視聴で当たり前のように飛ばされるCMに代表されるように、いまやメディアの「編集権」は受け手に移譲された。それはいわば、メディアそのものによってはその結果を「アンコントロール」(=操作できない)な部分が増えたということだ。UGCなど専門用語を知らなくても、日頃からネットに接していたらこのことは直感的にわかるだろう。メディアは「イジられる側」に回ったのだ。

パート2では、それでも、マスメディア、ソーシャルメディアを通して多くの人を動員することになった最近の現象を、その規模ごとに解説していく。Twitterでのプリン誤発注(そして完売)事件から、LIneの5億人突破まで、ありとあらゆる規模のイベント、活動が解説されていく。中には、「ナニワのカリスマ添乗員」や「ジレットがインド人の生活習慣を変えた」といった、知らない現象もあったのでおもしろかった。ただ、2人の分析については結果論の趣が否定できず、1万人規模の動員のポイントとして「人間の根源的な欲求や本能に訴えかける」とあるのだが、10億人のポイントでも「人間の本能欲求と普遍的ニーズにこたえる」とあり、ボジョレー・ヌーボーのコピペか! と思わなくもない。

本田氏によるパート3では、本書のタイトルが実は「(これまでのように)広告やメディア(だけ)で(たくさんの)人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい」といういわば"警告"であったことが明かされ、これからのマスメディア、ソーシャルメディアを駆使したPRに必要な考え方や具体的な手段を、概略ながら解説していく。


パート1とパート3で、両氏がともに書いているのが「身を捨てる覚悟」を持て、ということだ。ぼくはこの部分で、アントニオ猪木師匠の「バカになれ とことんバカになれ」という言葉を思い出した。

猪木詩集「馬鹿になれ」 (角川文庫)

猪木詩集「馬鹿になれ」 (角川文庫)

具体的な結果が求められる企業ではあるが、アンコントロールな部分(自分に裁量権がない!)がある昨今のメディアで結果を出すということは、いわば賭けをするということだ。そんなことをやれるのは、「バカになれ」る人しかいない。ぼくなりにアレンジすると、それは「イジられる覚悟」のことなのだと思う。スーツをバシッと決め、ネクタイをビシッと締めたままでは難しく、精神的にフリ●ンにならなければならないのだろうなぁと感じた。


先述したように、日頃からネットに触れている人間からすれば、本書の内容はタイトルからある程度は想像がつく。それぐらい、皮膚感覚でわかる現象なのだ。
だけど、なのに、未だにそれがわかっていない「メディア関係者」もいるようで……。
自作自演疑惑が浮上? フジ「27時間テレビ」で露呈したみっともない舞台裏 - ライブドアニュース
フジテレビのスタッフとみられる者が、Twitter捨て垢を作り、27時間テレビへの応援コメントを自作自演したのがバレた、という出来事。
本来アンコントロールソーシャルメディア上の反応をコントロールしようとして失敗した恥ずかしい事例だが、なによりも、こんなチープな自演を2014年になっても大手テレビ局が行っていることに驚嘆すべきだ。

未だにカーディガンを肩からかけ、ギロッポンでチャンネーとシースーを食ってるようなテレビ局のプロデューサーやらディレクターは、化石になる前にぜひとも読んでおきたい一冊だろう。

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