- 作者: 唯川恵
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/09/01
- メディア: 文庫
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「ベター・ハーフ」とは、本来「魂の伴侶」という意味らしいが、これは皮肉だ。というのもこの夫婦、始まりからして仲が最悪だからだ。披露宴のあと立ったハネムーン先で、妻だって婚約までは二股をかけていたことが明かされる。そこが最悪最低で、そのあと何らかの出来事で仲直りするといったこともなく、ずっと低空飛行なのだ。夜の営みについても、徐々にご無沙汰になっていってしまう。
おまけに、身から出た錆である場合が多いが、次々と新たな苦難が襲い、2人は破局の危機を迎える。お互いにとって「ベター・ハーフ」であったはずの伴侶は、愛するどころか憎むべき相手へと変貌していく。
けれど、なのに、「いつでも別れられる」ということをいいわけに、お互いが決定的な決断は下さない。そこに未練という感情は介在しない。作品はあくまでも偶然の産物として、結婚の存続をドライに描く。
度重なる諍いで、夫婦の間を埋めていたポジティブな感情は跡形もなく削がされていくが、削がれていけばいくほど、その2人の関係性をかろうじて保っている、たった一枚の紙切れによる契約が前景化してくる。
恋愛なら絶対に別れる理由が、結婚には当てはまらない。かといって、すべてを許し合うわけでもない。腹立たしさはある。失望も落胆もある。憎しみさえも、消えることなく記憶に積み重なっていく。それでも、夫婦はその場所から容易に離れることができない。まるで、すっかり毛羽立った毛布のように、型崩れして人前では脱げないハイヒールのように、うんざりして、新しいものが欲しくなり、きょろきょろと辺りを窺っても、馴染んだ感触や履き心地に手放す決心がつかず、元の位置に戻してしまう。
もしかしたら、ほんの少しわかり始めているのかもしれない。新しい毛布もいつかは毛羽立ってしまうことを。洒落たハイヒールもいつかは自分の足の形のままに堅崩れしてゆくことを。p.246
後半では、半ば偶然生まれた娘の育児や、リストラ、父親の痴呆、お受験、子宮摘出など、あらたな問題が降り掛かってくる。
こうしてみると、本田透氏のいうケータイ小説の「7つの大罪」(売春、レイプ、妊娠、薬物、不治の病、自殺、真実の愛)かよとツッコみたくなるが、子宮摘出を「不治の病」に数えれば、薬物と自殺、そして真実の愛以外はこなしているのだから、あながち冗談でも終わらない。
- 作者: 本田透
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2008/02/16
- メディア: 新書
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というわけで、ケータイ小説同様に味付けが濃くて、俗っぽくはあるのだけど、ときおりはっとする指摘がなされている。
結婚前、身体は武器だと思っていた。
男たちが優しくしてくれるのも、結局のところ、目的はひとつしかない。もともとオスの本能を刺激するようにメスの身体は出来ている。それを承知しているからこそ、よりよいオスを得るために、メスは着飾り、上目遣いを覚え、甘い匂いを撒き散らす。
(中略)
結婚はオスとメスを緩やかに去勢してゆく。その方が生活には適しているからだろう。一時は抵抗したこともあるが、今は永遠子もそう思う。だから不満に思っているわけではない。ただ、身体という武器をなくした今、戦い方がわからないだけだ。代わりになる武器を何も持っていないことを思い知らされているだけだ。
pp.312−313
武器をなくし、戦い方がわからない者同士の戦い――結婚をそうとらえたら、いろいろ納得できるものなのかもしれない。
結果的に、2人の間に生まれた娘が2人の関係をつなぎとめる、というありがちな話で、小説はそこでやや上向きに幕を閉じる。ただこれもズルい話で、まだ幼児のこの娘が作中で文彦が買っていたような若い女達のように成長しないという保証はどこにもないのであるから、この夫婦の波乱は続くのだろうといじわるなぼくは思う。
未婚者、ましてや結婚に夢を持っているような人は、取り扱い注意な一冊だ。