いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】高地戦 (限りなく5つに近い)★★★★☆

高地戦 スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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終わりの見えない朝鮮戦争を、南北の境界線となっている高地を舞台に、国策に翻弄される兵士たちの視点から描いている。

いやぁ、すごい映画だった。
いろんな要素が一作のなかに余すところなくつぎ込まれていて、もうお腹いっぱいという感じ。しかし、それでいて消化不良に陥ることなく、めちゃくちゃ面白いのだ。
ダーレン・アルロフスキーは最初「レスラー」と「ブラック・スワン」を同じ映画として撮ろうとしていたといわれているが、本当に「レスラー」と「ブラック・スワン」を同じ映画でやった、みたいなボリューミーな内容である。


韓国軍防諜部のウンビョは、軍内に北のスパイがいるとの噂を確かめるべく、軍事境界線に駐留する部隊「ワニ中隊」に配属され、裏切者を探すことになる。そこで期せずして、戦中に行方不明になった友人スヒョクと再会する。
ワニ中隊のメンツというのが戦争映画の定番を踏襲していて、豪快に笑う小太りの男がいれば、怒りっぽい男、まだ子どもにさえみえる末っ子キャラまで、多種多様。
このようなスパイ要素もありつつ、この映画は壮大な戦争も描いている。特にこの映画では戦場の地形が高地というところが特徴的で、戦争映画でも未だかつて観たことがないような急こう配で撮影されている。これも見もの。


さらにさらに、このあと少し少年マンガ的な要素も追加される。それは通称「2秒」と呼ばれる北側のスナイパー。撃たれて2秒後に銃声が聞こえる(つまり700m近く離れているところからの狙撃が可能)ことからついた異名をもつワニ中隊の宿敵だが、このスナイパーの正体が……であったというのも、どこか日本のアニメ・マンガ的なものからの影響を感じる。
先に書いたようなリアルな戦争描写と、「2秒」に一方的に狙撃を受けるシーンというのは、リアリティが全然ちがうのである。けれど面白い。おもしろい映画とおもしろい映画をくっつけたら、ジャンルがちがっても面白いのである。


ただ、この映画がストーリー的にむちゃくちゃかというと、そういうことでもない。「視点」の変え方が巧みなのだ。
映画は「北と闘う韓国軍」の視点から始まる。しかし、実際の戦地では寒いから北の兵士の防寒具を着てあっけらかんとしている兵士さえでてきて、徐々に最初の視点は解体されていく。
視点解体の極致といえるのは、やはりあの「沈黙交易」の件だろう。北と南の兵士は普段殺しあっているが、同時に、上層部にバレない程度にお互いの利益を満たしている。ここで、「上層部に隠れて利益を満たす現地の兵士」という視点が頭をもたげる。
そして停戦決定後の悲劇的な展開は、戦時下の国家によって命は弄ばれているという点において、南の兵士も北の兵士も選ぶところはないという冷酷な事実を突きつける。

もう1点、この映画をさらにもう一段界上に押し上げているのは、なんといっても主要キャスト3人だ。
よいときの玉木浩二と佐戸井けん太を交配させたようなあっさりした顔のシン・ハギュン演じるウンビョは、軍部の事務方から戦地に赴きスパイを探す実質的なこの映画の主人公。二転三転する事実の間で「翻弄されまくり」な役を好演している。

スヒョク役のコ・スは、オリーブオイルもこみちの上位互換といった顔のつくりをしている。彼がこの映画で演じた好悪兼ね備えるスヒョクという男の放つ人間的魅力はすごい。2丁目での人気もすごそう。

そして最後がワニ中隊のリーダー的存在シン・イリョン中尉を演じたイ・ジェフン。先の2人よりは明らかに若いのに、ワニ中隊では彼より明らかに年上の兵士たちも、軍の階級以上に彼を敬い、同時に腫れ物に触るかのように扱う。彼がモルヒネ中毒におちいり、まるで死に場所を求めるように戦地に突っ込む背景には何があったのか。イリョンが身をもって味わった壮絶な体験は、後半明らかになる。



と、まぁこのような感じで、牛とトンカツと天ぷらが同じどんぶりに乗ったような豪華絢爛な内容である。ぜひぜひ味わってみてほしい。