いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ザ・タウン ★★★★☆

舞台は犯罪が横行する街、ボストン州はチャールズタウン。犯罪者の子供が当然のように犯罪者になるこの街で育った男が、ある女性と出会い、その因習を断ち切ろうともがく姿を描く。ベン・アフレック監督第2作にして、初めて自作で主演を務めている。

のちに『アルゴ』を撮ることになる彼だが、もうすでにこの映画ではエンタテイメント作家としての才覚が研ぎ澄まされている。
どういうことかというと、とにかくドキドキするシーンの連続なのだ。カーチェイスなど緊迫して当然だが、そのほかにも銀行の店長に金庫を開けさせる最初の場面やカフェテラスでの鼎談の場面など、ストーリー上どうしても必要というわけではないはずだが、「あかん!あかん!」や「バレる!バレる!」というスリリングな展開が次々に押し寄せる。


4人(といっても実質2人だが)の凄腕強盗団を率いるダグ(ベン・アフレック)は、あろうことかもっとも危険な相手とのロマンスにはまっていってしまう。2人の恋が実り、さあ街を出て新しい人生をはじめようとしたそのとき、銀行強盗を捜査するFBI、そして、この映画のタイトルである「街」が、彼らの行く手に立ちはだかる。「街」で生まれ育ち、犯罪を生業にしてきた者は、死ぬまで犯罪を続けなければならない――その「摂理」が自由を求める彼の行く手を阻もうとする。

いわばこれは、足を洗おうとする犯罪者に降りかかるシガラミという、時代と場所をかえて繰り返し描かれてきたような古典的な話なのだ。ありふれているのに面白いのは、先述したようにエンタテイメントとして細部にまでサービスを惜しまない監督の心意気によるところが多いだろう。

寄り道すると、この映画において主人公を呪縛する街の因習の権化のような「黒幕」の存在も印象的だ。どういう奴かというと、見た目が非常に「しょぼい」のだ。けれど、実は極悪人で、裏で糸を引いているのはこいつだったりする。似ているタイプでいうと、北野版『座頭市』の黒幕を思い浮かべてもらえばいいだろうか。彼も印象的だった。


閑話休題。ということで良作であることに異論があるという人は少ないと思う本作だが、ネットを拾うとやはり少なからぬ人が"あること"に引っかかっていることがわかる。
それは、結局もって主人公が「償えたのか?」という問題だ。これこそが前回の批評で予告した問題なのだ。
映画に限らず、作中で主人公による犯罪行為が描かれる。それ自体はかまわない。しかし、犯罪行為が行われたとき、そこに等価交換として「犯罪を犯さざるを得ない理由」や「償い」、もっといえば「喪失」を描かなければ、観客にはどこか「腑に落ちない」ものが残ってしまう。たとえば『俺たちに明日はない』や『パブリック・エネミーズ』では、主人公が死を持って償うことになる。


この映画において、主人公は最後の犯行のあといったい何を失ったのかという、実はちゃんと複数のものを喪失している。けれど、「街を出ることができた!」という達成感が強すぎるあまり、「喪失した」ということがわかりにくくなってしまっているのだ。
特に、フロリダの川辺でぼーっと夕暮れを眺めているカットで終わるところなど「ええやん、悠悠自適で」と思われてしまうところがある。けれど、よくよく考えると実は喪失している。いったい彼が何を失ったかは、実際に観てほしいところ。
そのような点でやや微妙なところはあるものの、それでも良作であることに変わりない。



◆ 最近の映画評
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
シュガー・ラッシュ
アイアンマン3