保険会社を勤め上げ、66歳で定年退職を迎えたウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)。順風満帆に見える彼の老後だが、気に入らない男との結婚式を準備している一人娘が気がかりだ。ひょんなきっかけでアフリカの子供に援助するプログラムに応募した彼は、ンドゥグと言う少年の養父となる。しかしそんなとき、シュミットの妻が……。
アレクサンダー・ペインの監督第1作。『サイドウェイ』『ファミリーツリー』と本作を比較すると、彼の作品にはある共通点がある。
それは、主人公が男であること。さらにいえば「かっこ悪い男」であるということだ。境遇や立場はまるでちがうが、『サイドウェイ』のマイルスにしろ、『ファミリー・ツリー』のマッドにしろ、そして本作におけるシュミットにしろ、みな痛々しい言動を押さえられず(本作でも「キャンピングカー」のシーンは見ていられなかった)その結果にじみでる「かっこ悪さ」においては共通している。
けれど、その「かっこ悪い」は容易に「人間臭い」へも反転する。彼らは「人間臭い」ゆえにかっこよくもあるのだ。つまり、本作をはじめとするペイン作品の男たちは「かっこ悪い」ゆえに「かっこいい」という、非常に不思議な存在でもある。
ペインの作品でもう一つ共通点をあげるならば、「指摘しづらい可笑しさ」というのもあげられる。ジム・キャリーのやるような偏差値の低い笑い(ほめてます)とはちがう、「おかしいのはおかしいけどなんかこいつ、変だよな」という微妙なラインの可笑しさが散りばめられている。
本作でそれの権化みたいなのは、一人娘ジーニーの婚約者ランドールで、髪型や服装、あと場違いな言動だったり、お前変だぞと指摘したくなるところだけどできない、ギリギリの境界線にいる。結局シュミットは、彼に直接的に突っ込んだりしないのだが、ずっと彼に「なんだこいつ」という視線を送っていたのは、すごく正しい。また本作では『ミザリー』のキャシー・ベイツも出ていたが、相変わらずホラーである。
結局本作は、「気に入らないことでも受け入れなければならない時が来る」という人類に普遍する問題だと思うのだけれど、それにしてもジーニーの結婚式は、シュミットにとってなんて寂しいものだったのだろう。
ここからわかるのは、真の孤独とは物理的な「一人ぼっち」ではなく、「この地球上に自分のことを理解してくれる人がいない」ということなのだ。
それだけに、最後に届いた「手紙」とジャック・ニコルソンのアップはずるい。嫌なことばかりの人生だけど、悪いことばかりじゃないというかすかな希望を匂わせて映画は幕を引く。