いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

クリント・イーストウッド『人生の特等席』60点

盟友ロバート・ロレンツの作品のために、一度は引退した“俳優クリント・イーストウッド"が復帰――これだけで観たくなる映画『人生の特等席』は、メジャーリーグの老スカウトとその娘の和解をめぐるドラマだ。

ひさびさの映画出演、しかも主演ということでそのブランクは大丈夫かと思ったが、杞憂に過ぎなかった。イーストウッドはいつものイーストウッドだった。頑固者で、保守的で、つねに不機嫌そうに顔をしかめている。ガレージから車を出す時、一瞬彼がグラントリノに乗ってでてくるんじゃないかとさえ思った。
この作品ではさらにそれに、生々しい「老い」も追加される。冒頭の小便のシーンなど、「どうだ、ハリー・キャラハンだって老いるんだぜ」とイーストウッドに見せつけられるかのようだ。
そしてその老いは、今作の中心的なテーマでもある。
昨年ブラッド・ピット主演で映画化された『マネーボール』は、旧態依然としたベテランスカウト陣を尻目に、ブラピ演じるゼネラルマネージャーがセイバーメトリクス(簡単に言えば、数値によって見た目だけではわからない選手の能力をはじき出す方法)を駆使し、弱小球団を強くさせていくという筋書きだった。


本作はそれの正反対をいっているといっていい。セイバーメトリクスどころかPC自体が使えない(使う気がない)ベテランスカウトのガス(イーストウッド)は、目の病気で球筋も終えなくなっている。球団から解雇される絶体絶命のピンチだ。そこで出てくるのがエイミー・アダムス演じる娘で、先に書いた通りこの映画は、父と娘が過去の行き違いでからまってしまった人間関係の糸をほぐしていく物語である。


「仕事一筋でパパは子供の頃の私にかまってくれなかった(グスングスン)」というタイプの話は定番で、実際にこの映画もその域を出ているとはいえない。
けれど、それ以上に気になったのは、この映画で重要な役割を務めるはずだった「野球」の描写だ。というのも、どうも極端なのだ。調子がいいことを表現するときはホームラン、悪いなら三振。数値でも、調子がいい時は5打数5安打、悪いときは4打数0安打と、極端な数字ばかり飛び出してくる。それで選手の好悪を表現するというのは、何よりも「数字だけじゃ判断できん」と言う主人公ガスのポリシーとも反している。
もしかすると、野球に疎い人のためにあえて分かりやすい極端な描写になっているのかもしれないが、もともと野球に関心ある観客からすればどうしてもシラけてしまう。
その極地となるのがクライマックスの「テスト」のシーン。ただあれは、ドラフトでのガスの選択がまちがってなかったということを大急ぎで示すために仕方なかったのかもしれない。けれど、スカウトの「目利き」の成果がわかるのは、早くてもその選手の1、2年後だと思う。


老人の体に刻み込まれた経験と目利きは、ときにはコンピュータの計算にも勝る――そのことを映画は言いたげであったが、80歳にもなって国政に「復帰」するとか言い出すおじいちゃんのいる国の人間としては、ちょっと複雑な結末ではある。


ちなみに、スカウトの仕事や苦労を知る上ではこの本がおすすめ。面白いです。

プロ野球スカウトの眼はすべて「節穴」である (双葉新書)

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