いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

「お約束破り」の集大成〜『007 スカイフォール』(原題: Skyfall)90点〜

007シリーズ50周年を飾る23作目「スカイフォール」。ダニエル・クレイグ版ボンドの三作目に当たる今作は、度肝を抜かれるようなすさまじい追跡劇で幕を開ける。追跡劇といえば、先代ピアース・ブロスナンからバトンタッチされたクレイグ版1作「カジノロワイヤル」で、期待と不安が募るぼくらファンを驚かせたのも、冒頭のパルクールアクション満載の追跡劇だった。

クレイグ版ボンドは、これまで踏襲されてきたシリーズの「お約束破り」を、かなり意識的にやってきている。たとえば、「カジノロワイヤル」とその次に製作された「慰めの報酬」の間にはかすかにであるが続編の関係があるし、クレイグの起用で実現したブロンドのボンドというのも、最初は批判の対象になった(今ではほとんど聞こえないが)。

その第三作目にあたる本作は、その「お約束破り」のまさしく集大成といえる作品であり、傑作だ。終幕後に「ブラボー!」といわんばかりに拍手をしていた人が後ろにいたが、それも全然まちがってない。ブラボー!!!

この映画、まず斬新なのは主な舞台となるのが異国ではなくロンドンであり、007の所属するMI6なのである。英国紳士のボンドがロンドンの街を疾走するシーンは、本来当たり前のことのはずなのに目新しく映る。
今回の敵ハビエル・バルデムが演じるラウル・シルヴァは、ボンドの直属の上司M(ジュディ・デンチ)のかつての部下という設定。元スパイでボンドのかつての同僚・・・・・・という設定自体はすでに今までにもあったが、彼の場合はM個人に対して強烈な憎悪の炎を燃やし、MI6壊滅と彼女の抹殺を画策する。そしてシルヴァが、007=ジェイムズ・ボンドときれいなネガとポジの関係になっているという展開もアツい。007がMによって生み出されたヒーローだとすれば、シルヴァはMが生み出してしまった怪物なのだ。

シルヴァの策略によって、MI6とMは英国政府からの批判の矢面に立たされる。スパイなんて危険な仕事は人命軽視で、コンピュータに取って代わられるべき時代遅れの遺物!さっさと事業仕分けしろ! とでも言わんばかりに叩かれまくる。昨日書いた『人生の特等席』と同じ日に鑑賞したんだけれど、時代の波に押し流されそうになりながらも踏みとどまる遺物の葛藤を描いているという点では、奇しくもこの映画も相通じているところがある。


映画は後半、これまであまり深く語られなかった007=ジェイムズ・ボンドのルーツへと、文字どおりたどって行くことになる。このあと巻き起こるボンドとじじいばばあによる「ホームアローン」作戦などは、少しコミカルな場面であり痛快だ。

何よりも、本作を見ていて一番の「お約束破り」だと思ったのは、この映画スカイフォールにおける真の「ボンドガール」とは、007に長らく厳しい目を向け続けてきたM本人だった、ということなのである。


どのようなシリーズにもいえることだが、「お約束破り」というのは"最終手段"であることが多い。本作でも終盤、シリーズ終了を匂わせるような展開が用意されている。しかし、その後でそれがただの杞憂であったことがわかり、一安心だ。
クレイグが老けないうちに、何作でも撮り続けてもらいたいものだ。