いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

キャラの魅力に乏しいマンガ原作映画を評価できるか? 〜『るろうに剣心』レビュー〜


週刊少年ジャンプで連載された和月伸宏による同名タイトルの人気マンガの映画化。

マンガに限らず原作もののある映画は、どこをどう改編するかというのがかなり重要になってきます。そして、その改編のしかたで、ときに原作をも凌駕する作品が出来上がることがある。この実写映画版『るろうに剣心』も、原作を意欲的に改編している点が多々ありました。
すでにちまたで話題になってますが、おおむね好評なのは殺陣。どっしり腰を据えた重量感ではなく、若い観客に対して訴求力のあるスピード感に重点を置いた剣劇で、これはよかったです。
この殺陣を活かすためにある「引き算」の工夫が施されていると思います。というのも、この映画版では原作マンガにあった剣心の飛天御剣流の技の数々が、ほとんど省かれているわけですね。たしかに原作どおりに一個一個の技を描いていたら、この映画の持ち味である殺陣のスピード感を殺してしまうおそれがあった。そのわりに最後の最後にひとつだけ出てきたのが双龍閃というめちゃくちゃ地味な技だったんですけど、それでもこの改編はありだと思いました。
またこの映画の殺陣では、こうした引き算の工夫だけでなく、意欲的な「足し算」もなされています。
観ていて「お、いいな!」と思ったのは、剣心がパルクールアクションをするところと、ヘッドスライディングで相手のまたをくぐり抜けるところ。ここらへんはたしか原作には一度も出てこなかった動きだったと思うんですが、原作での小柄ですばしっこくぴょんぴょん飛び跳ねる剣心像のその先を、原作からさらに深めているという印象があります。


ここまで、ぼくがこの映画についてよかったと思うところを書きました。では、ぼくはこの映画におおむね好意的なのかというと、、、そうでもないんですね。
まずキャスト。公開決定時に緋村剣心佐藤健ってどうなのよ? という話題で持ち切りだったと思います。アニメ版で声優を務めた涼風真世がそのままやればいいじゃね? という声さえあったと思いますが(それはそれで観てみたい)、この剣心=佐藤健、悪くはないんです。ただキャラにメリハリに欠けるんですね。原作版だと日常パートのおっとりしてやや天然はいったキャラ――いわば「おろ成分」みたいなものがもっと強かったと思うんです。それがあるだけに、敵と相対して逆刃刀を持ったときの鋭い表情が映えてくると思うんですが、今作の剣心は日常時と戦闘時でキャラにそれがあんまり効いてないんで、キャラが弱いですね。
あと、これはぜひ劇場で確認してみてほしいんですが、ところどころで剣心がお腹こわしたときみたいな顔をするんです。あの表情は憂いや絶望を表現しようとしてるのかわかりませんが、三日間くらいお腹こわしたときの顔にしか見えなかったので、そこは残念でした。


その他のキャストも含め、「悪くはない」。これが個人的にものすごく的を得た表現になってるんです。悪くはない! だけど、うーむ……という感じ。
というのも、マンガ原作の映画にしては本作「るろうに剣心」は、各キャラクターの魅力に乏しいんです。では「キャラクターとしての魅力」とはいったい何か。独断と偏見でいうとそれは、そのキャラに「また観たくなるような中毒性」があるかどうかですよね。今回の映画版にはそのようなキャラがいないんです。
鵜堂刃衛=吉川晃司と斎藤一江口洋介の二人、この二人だけはそのような人気を獲得するポテンシャルがあった。

とくに、鵜堂刃衛なんて、実は語っている思想なんかは『ダークナイト』のジョーカーとかぶるところもあって、上手くやればカルト的な人気を勝ち得たかもしれないのに、もったいない。斎藤一はもともと好きなキャラクターでそれを好きな俳優の江口洋介が演じるということにかなり期待して観たんですがイマイチでしたね。悪い意味でいつものエグっちゃんの通常運転というか。あれなら里見教授(@白い巨塔)とたいして変わらないですよ。余談ですが、斎藤も剣心と同じように彼の代名詞である「牙突」という技が省かれてるんですが、劇中唯一「牙突?」と思わせるわざが、ものすごくダサい使われ方をしていて、複雑でした。

ストーリーについても、うーむ……。この映画は、原作マンガの序盤「斬左編」「黒笠編」「恵編」のキャラクター、ストーリーを接ぎ木したオリジナルストーリーで構成されています。明治維新後に「不殺」の信念を固く誓い逆刃刀を握ったけれど、「不殺」で人を守ることができるのか?という剣心の葛藤にテーマに絞りこみ、鵜堂刃衛をラスボスにしたところは2時間強の映画にまとめるためにあってしかるべき措置だったとぼくは思います。
ただ残念だったのは、そうした再構成を施したわりにストーリーが整理しきれていないんですね。
たとえば、弥彦と左ノ助はこうした再構成の結果ほとんど不必要なキャラになってしまった。よく観ていたらわかると思いますが、実はこの二人はストーリーの核にほとんど関係してないんですね。原作の人気キャラ四乃森蒼紫をバッサリ切ったのと同じ大胆さで、この二人も省いていたらもっとシンプルにまとまっていたと思います。
あと、これは仕方ないのかもしれませんが、剣心がふたたび流浪人となり自分のもとを去っていってしまうのではないかという薫の危惧と、留まってくれたことへの彼女の安堵は、時間的なスケール感がないのでやはり飲み込みがたいですよね。
そして、個人的に最悪だったのは武田観柳=香川照之、こいつがクドすぎるんですよ。いえ、香川さんは『ゆれる』のお兄ちゃん役とか大好きなんですけど、この映画に関して言えば他の役者から悪い意味で浮いてしまっています。もう、武田があのBGMで出てくるたびにうんざりするというか、大ブレーキになってました(あと、あの映画オリジナルの三つ子みたいな白い三人組にはいったい何の意味があったのか……)。あと武田率いる敵キャラたちに謎の置換があって、これは謎でしたね。原作ファンにおもねらなくてもいいけど、原作ファンをわざわざミスリードするような作りにしなくてもいいのではと思いました。


とまぁこんな感じで、観た人の多くが「殺陣がよかったよ」と言っていたのをまるでなぞった感想しか書けないですが。
興行的にはヒットしているみたいなんで、このまま京都編、人誅編と作られていくのかもしれませんが、それは楽しみなのか心配なのか、よくわかんないですね。ただ、人誅編はゴッドファーザーPART2みたいな構成で作ったら、結構燃える展開になるんじゃないかと思ってみたりして。