- 作者: 小路啓之
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/03/04
- メディア: コミック
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先日、Twitterで面白いマンガを募集したところ、とある相互フォロワーの方から小路啓之『来世であいましょう』をお勧めしてもらい、そのやりとりを目撃した(?)UstreamメンバーのAKISUE氏に貸してもらうという、面白い経緯で手にすることになったのがこの小路作品『ごっこ』全3巻である。
人に借りておいて勇気がいる発言だが、率直にいうと強烈にキモチワルイ(だから嫌いだとかいうわけではなく)漫画だ。
ストーリーは、30歳で引きこもりの主人公「ボク」が、血の繋がらない娘ヨヨ子を育てていくというものだ。血のつながらない父娘というと「うさぎドロップ」を連想し、絵柄の影響もあってほっこりする作品なのかと期待したいところだが、その期待は早速ぶち壊される。
ヨヨ子は虐待児で、偶然見かけた隣人の「ボク」が救いだしたのだ。ここまではいい。ところが「ボク」自身も筋金入りの幼児性愛者で、ヨヨ子を相手にイクところまでイキかけてしまう。
これはしょっぱなの話で、本作はこれ以後も「暗黒面に堕ちた『うさぎドロップ』」っぷりを存分に見せつけてくれる。
ただ、ぼくが前述した「キモチワルさ」は、主人公のそうした性的趣向のためではない。それも一部ではあるが、本作のキモチワルさの根源は、おそらく作品の「語り口」にあると思う。
特に1巻、2巻の前半までが強烈で、主人公を始めとするいろいろな人物の狂気が露見する。
もっとも、主人公が狂っている作品はこれまでにもたくさんあるが、問題はその描き方の方にある。
この作品においては「正気」と「狂気」の垣根が、あまりにも低いのである。主人公「ボク」は、バリアフリーをまたぐように安々とその両者を行き来してしまう。それが、本作独特のキモチワルさにつながっているのだ。喩えるなら、MCがボケ倒しているのにそれに誰もツッコミを入れない番組、みたいな感じ。本作を読むと、「まともでない人」がストーリーテラーをすることが醸し出す、独特の「船酔い」に陥ることができる。
そうしたキモチワルさとは別に、ストーリーの方は完成度が高い。タイトルにあるとおり、大人と子どもという共犯関係=ごっこ遊びをテーマとしている。
本作はそんなごっこ遊びについて、大人が子どもに付き合ってやっている気でいるが、それは本当なのか? という疑問を突きつけている。そのように見えても実は、「子どものごっこに付き合ってやっている大人」を満足させるために子どもの側がごっこ遊びに興じる「フリ」をしているだけなのではないか、と。そんな「大人/子ども」を脱構築する試みに感心してしまうところはある。
全編「キモチワルイ」のだが、その先にいくぶん拍子抜けするほどのハッピーエンドが待っており、その独特のバランス感覚も、味わってみる価値があるかもしれない。
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