いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

「成り上がり」の面白さを再確認できる『キングダム』

周回遅れもいいところだが、いま原泰久『キングダム』を読んでいる。まだたった4巻だが、すでにハマりかけている。おもしれえ。

中国の春秋戦国時代を舞台に、信という少年が主人公だ。彼は身分制度の中にすら入れてもらえない下僕で、正真正銘何ももっていない。けれど、にもかかわらず、「武功により天下の大将軍になる」というバカみたいに大きな夢を抱いている。

アクションマンガではあるけれど、バトル描写はわりとオーソドックスでとりたてて特徴があるわけではない。不思議なことに読んでいて血沸き肉踊るのは、バトルに至るまでの会話のプロセスだったりする。こんなことは、あまりアクションマンガではないのではないか?

なぜ会話のパートが面白いのか考えると、たぶん「何も持たない者」が「正統」や「王道」といったものに喧嘩を売る構図は、普遍的におもしろいんだろう。このマンガはその面白さの"核"みたいなものを、バトルよりも人物描写で描いているのだと思う。

下僕の信にとって、身分は厳然とした障壁として存在する。けれど、生まれた身分が悪かったと嘆いてもしかたない。それではどうするか――他の人よりも不利で、リスクをとらなければならないが、勝負に出るしかないではないか。そういう清々しく潔い価値観がこの作品には通底している。

作中では信が、追い込まれた秦国・第31代目の王である政(この人物も「正統」ではないとして排除された身だ)と共闘することになる。ただそれは、忠義を尽くす部下というより、王の命と引き換えに身分、財産の保証とのトレードだというのが、またしたたかだ。

身分がなければ財産もない。礼節も知らないが剣だけはある。その腕ひとつでのし上がっていこうとしている者の歩みが、見ていてゾクゾクしてくる。