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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】結婚詐欺師 クヒオ大佐/吉田和正

結婚詐欺師クヒオ大佐 (新風舎文庫)

結婚詐欺師クヒオ大佐 (新風舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「ワタシト婚約スルト結納金ガ米軍カラ5千万円出マス。結婚スルト英国王室カラ5億円ノ結納金ガ支給サレマス」。破天荒な口上とパイロットの扮装で次々と女性を騙し、稀代の詐欺師と謳われた、クヒオ大佐。58歳になってもなお懲りず、新たな獲物に標的を定める、その本性とは―。女たちは彼のどこに惹かれたのか―。

昨年、吉田大八監督による『クヒオ大佐』を観たが、気になって原作本も手にとってみた。
米軍のエースパイロットを騙り、世の女性を次々とだまし、金を巻き上げた実在の詐欺師ジョナサン・エリザベス・クヒオ(本名・竹内武男)を、彼の裁判を傍聴し、その後とある駅で彼と運命的な“再会”を果たしたという著者が追った一冊。


読んでみると、クヒオの基本情報以外は原作と映画はだいぶ趣向がちがい、また内容もかなり違うことがわかる。
映画はドラマの形式をとっているため、堺・“倍返し”・雅人がクヒオを演じたことからもわかるように、最初はやや優雅にもみえる。とくに、湾岸戦争での日米関係にからめるあたりは、完全に映画オリジナルだといっていいだろう。

一方原作では最初から、ウソがバレバレで、なんでこんな奴に女はダマされるんだと不思議がる著者の視点から書かれるので、その優雅さが消え失せている。そしてなによりも大きいのは、著者自身がクヒオの更生に動いている、彼に介入しているという点だ。


ハイライトは、著者とクヒオの“再会”し、会話するシーン。彼が更生するかもしれないという期待から、著者はクヒオの故郷・北海道に同行するのだ。
そこで、ときおり「クヒオ大佐」という虚構から「竹内武男」という現実が顔を出しそうな期待をもたせつつ、次の瞬間には大ウソが飛び出し、著者をがっくりさせるあたり、コントみたいなやり取りで笑えるが、同時に物悲しくもある。


読んでいると、そうやってクヒオにかまってあげる著者が、ミイラ取りがミイラになっている側面もあるんじゃないか、とも感じるのである。
ついに、被害者の一人がお金が返ってこなければ被害届を出すという段になり、著者やその仲間が、クヒオの愛人(かつての被害者)に金策に急ぐよう促すのである。

もちろん、被害女性たちがいたたまれない同情心や、ここまでコミットしたのだから収益化しなければという思惑はあるけれど、そうした擬似共同体を作らせるあたりがクヒオの負のカリスマ性――言い換えれば「仕方ねえやつだなぁ」と母性本能をくすぐる何か――なんじゃないだろうか。