いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】クヒオ大佐 90点

クヒオ大佐 [DVD]

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ジョナサン・エリザベス・クヒオという米空軍パイロットを騙り、何人もの女性を被害にあわせた実在する日本人の結婚詐欺師を描いた、堺雅人主演のクライムコメディ。現在公開中の『紙の月』でメガホンをとった吉田大八監督作。

最初に驚くのは、堺雅人が演じる珍妙な人物である。なんだか妙にカタコトだし、いつもより妙に鼻が高いっ! いかがわしさが基準値をはるかに超えているが、なんでこんな男にダマされるんだ……。
なぜあんな奴が女性をダマせるのか――実はその説明は、クヒオが出てくる第2部の前にすでになされている。第1部でやり玉にあがるアメリカと日本の関係は、クヒオと彼にダマされる女たちの関係の比喩なのだ。
軍事的にアメリカの属国である日本には、アメリカとの間に「交渉」の余地など実はない。金を出せと言われたら、プロセスはどうあれ結局は払わなければならないのだ。それと同じように、クヒオがしのぶ(松雪泰子、それにしてもこの人は映画の中でよく弁当屋を切り盛りしている)をダマせるのは、恋愛弱者の彼女にクヒオの要求を断るという選択肢が最初からないからだ。


これで『紙の月』以外の作品はすべて観たことになるのだが、吉田監督の作品にはある共通点がある。それは、登場人物たちの抱いている理想と、目を背けたくなるような現実の間に架橋し難いギャップがある、ということだ。そしてそのギャップに素直に向き合おうとしない彼ら彼女たちの仕草が、なんともおかしく、それでいて切ない余韻を残す。

そういう意味でクヒオが生い立ちを語る(騙る?)場面は秀逸で、ハッとするような悲しい現実の描写に、やわらかな堺の夢語りが絶妙なタイミングで交差し、その2つの架橋しがたいギャップになんとも言えない物悲しさを覚えてしまう。ただ、あそこで一番グッとくるのは、すべてを流暢な日本語で語り終えたクヒオがそっと、カタコトに戻るところなのだが。コントでの内村光良的な存在感が漂う堺雅人が、この場面だけではグッと観客の共感を誘うのだ。

満島ひかりも光っていて、冒頭で子どもにきのこを説明するシーンの絶妙なやる気のなさ加減は、さりげないがすごい演技力だと思う。クヒオを逆に手玉にとるホステスの中村優子もいい。


シーン、セリフが配置が効果的で、かつ冗長でない。このあたり、CMディレクターからキャリアが始まったという吉田監督の来歴との関連性もさぐってみたくなる。