いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】パラドックス13/東野圭吾

パラドックス13 (講談社文庫)

パラドックス13 (講談社文庫)

日本の大月首相は、JAXAの担当者からブラックホールの影響で3月13日13時13分13秒に起きると予測されている「P−13現象」について説明を受けていた。政府が秘密裏に現象への対応が進めていた中、現象が起こるとされたその瞬間、警視庁の警視、久我誠哉とその弟で巡査の冬樹は、追っていた強盗グループの凶弾に倒れた。目覚めたとき冬樹は、驚くべき光景を目にする。そこにはいつもと変わらぬ大都市東京が広がっていたが、あたりには誰もいなかったのだ……。


本作は、SFアドベンチャーといえる560ページあまりの長編小説。生き残った人々が結集し、切磋琢磨してサヴァイブする様を描きながらも、同時に「P−13現象」とはいったいどういう現象だったのか、そしてなぜ大量の人が消え失せなおかつ、自分たちだけが生き残っているのか――その謎も解き明かしていく。どうでもいいが、無人の東京という映像化しがいがある舞台はのちに映画化されるだろう、とここで予測しておく。

カタストロフィものにはつきものだけれど、「日常」が崩壊した世界において、人々は自分たちの手で新たな秩序を作り始めることになる。そこにはもちろん意見の対立があり、調停しなければならない。冷静沈着な誠哉がリーダーとなり、パーティをとりまとめるが、ときには全員が生き残るために冷酷とさえいえる合理的判断を下すことになる。
法秩序が意味をなさなくなった世界では、何をとり何を捨てるか、それらはすべて自分たちで考え、選びとらなければならない。逆にいえば、「日常」がいかにわれわれから思考する機会を奪っているかが、わかる。

相次ぐ天変地異、インフルエンザの蔓延などで追いつめられていく彼らはまた一人、また一人と息絶えていく。生き残った者たちは、果たしてもといた世界に戻ることができるのか。それは実際に読んで確かめてほしい。


※以下、ネタバレせざるを得ないツッコミどころ
「P−13現象」の真相について読みながら、13秒間でどれだけ人が死ぬのかが気になった。作中人物たちは、13秒間のうちに死んだばかりにたった十数人で取り残された自身の境遇を悲観しているが、本当のところはもっと多くの人が取り残され、思いのほか希望が持てる状況なのでないか、と思ったのだ。
ということで実際に計算してみた。
日本において1秒間でどれだけ死ぬのかはわからないので、とりあえず資料としてある「日本の年間死亡者数」から、1秒あたりの死亡者を単純な計算式で推測してみたい。
2013年の日本の死亡者数 127万5000人÷ 365日÷ 24時間÷ 60分÷ 60秒
= 0.04042998477人

13秒だからこれに13をかけると、
0.04042998477人× 13秒=0.52558980213人


1人に満たない。13秒だと、日本では人一人が死ぬ確率がちょうど半々程度のものなのである。つまり、ぼくが考えたこととはむしろ反対で、13秒では全然人は死なないのだ。昼間なのでもう少し多くなると思うが、それでも本作に登場するような十数人が13秒間のうちに死ぬ(しかもみな都内で!!!)ということは、ほとんど奇跡に近いといっていいだろう。


ついでに、全世界での13秒間での死亡者数も計算しておこう。
これも概算だが複数のサイトで1日約15万人となっているのでこの数字を取り、
15万0000人÷ 24時間÷ 60分÷ 60秒× 13秒= 22.5694444444人
全世界でみても22人か23人である。「P−13現象」の間に死亡した人々が実際に味わうのは、絶望的な孤独であると思われる。