
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/10/01
- メディア: 単行本
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1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。
内容(「BOOK」データベースより)
奥田英朗のおそらく自伝的小説(生年が同じで、出身地は岐阜→愛知・名古屋市)。
主人公・田村久雄の10代後半から20代後半、78年から89年までのある日を舞台にした6つの短編連作です。
ウマいなぁと思ったのは(この作家について語るとき、ぼくはいつも「ウマい」という表現を使ってしまう)、どの章もその年に起きた歴史的事件とリンクさせているんです。
例えば、ベルリンの崩壊はこんな風にすこし皮肉な形で入ってきます。
ふと目をやると、ブラウン管の中で群衆が大騒ぎをしていた。日本ではなさそうだ。東欧あたりの暴動に見えた。みんなみすぼらしい服を着ている。
やだやだ、貧乏な国は。
ルノーを発進させる。この車はキャッシュで買った。そろそろBMWもありかな、と思ったりもする今日このごろだ。
p.310
ジョン・レノン殺害、キャンディーズの解散、江川のプロ入り初登板など、当時の歴史的事件をリアルタイムで体験した久雄の、かといってそれだけに気を取られているわけでない生き生きとした実人生が描かれる。久雄≒奥田英朗と同世代の読者には、ドンぴしゃに刺さる内容じゃないでしょうか。
かといって、ある特定の年代の特殊な舞台設定を書いているようで、そこには誰もが心を動かされるような要素をいれられている。
大学の先輩に飲み会でわけのわからない芸術理論をかまされたり(数年後、自分が同じことを後輩にやってそれが大したことなかったことが発覚するんですが)、上京してきた途端に地元では疎遠だった友達が急に「親友」になったり、初キスで前歯が当たったり、仕事で自信がついたり、かといって調子に乗っていると思わぬしっぺ返しをくらったり。
そんな悲喜こもごもは、何も奥田さんと同時代に青春を送った人でなくても起こりうる体験なわけで、だから本書は面白い。読者は、「その時代ならでは」を外側から楽しみながらも、同時に主人公の身に起こる「いつの時代もありそうなこと」に共感できるんです。
青春小説に欠かすことのできない恋愛も描かれます。
本作では、各章で4人の女の子が久雄の彼女、もしくはそうなりそうな存在として登場します。けれど章が終わり、時代をスキップした次章では、その女性についてはまったく触れられないんです。
たぶん久雄とその女性はうまくいかなかったんですが、別れた顛末については語られない。その女性が今どうしているのかすら触れられないんです。
ぼくは、それがなんかいいなぁと思えたんです。変な話ではありますが、評者はついさっき前章で読んだ二人の希望にみちた関係が、愛おしくなってきました。誰だって、その時代その時代に好きな人がいて、ときには恋人になったりする。でもそれは永遠でない。永遠に続くとすればそれは夫婦で、夫婦になるのもいいと思うんですが、永遠にならなかったからこそ輝かしくみえることってある。
この感覚は分かってもらえるでしょうか?
ところで、19から29にかけてを「青春」という言葉でくくることについて、特に女性は違和感を持つかもしれない。
たぶん自分は、二十九歳になっても、将来は何になろうなどと考えているのだ。
無意識にため息がでた。
p.323
この感覚って、先週28歳になったぼくもわからなくもないんですよ。別になりたい自分があるわけじゃなく、功名心があるとかでもないですが、今の自分がゴールだとはつゆとも思えないんです。
ついで、久雄たち同級の友達がベルリンの壁崩壊のテレビ映像をながめる小説のクライマックス。
「東西冷戦も終わったんだな」小倉がぽつりと言った。
「いいことじゃないの」と三輪。「世界はこれからが本番ってことよ。これが始まりさ」
「おれたちもそうだといいけど」久雄が酔いの回った頭で言う。
「青春が終わり、、人生が始まる、か」
誰が言ったのかと思えば森下だった。なにを小癪な。
でもからかう気はなかった。いい顔をしているのだ。
三十になった、男の顔だった。
画面では群衆が歓喜のパレードを繰り広げている。
青春の終わりを迎えた男たちは、その様子をずっと見ていた。
pp.352-353
同世代の女性からすれば、「はあ?????あんたら何ほざいてんの???????」って話だと思うんですよ、ほんと。
でもすいません、この感覚もわからなくない。武の『キッズ・リターン』じゃないですが、「まだ始まってねーよ」なんですよ、男っていうのは。
でも一方で、そんなことを言ってかっこうがつくギリギリのラインが、ぼくは三十だと思うんです。
もしそれ以後にこんなこといえば、同性からしてもさすがに引くレベルです。そんな男の悲劇を描いているのが、最近映画化された『俺はまだ本気だしてないだけ』なのかもしれないですが。

- 作者: 青野春秋
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: コミック
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