いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

M-1もR-1もキングオブコント(C-1?)もダメにするS-1の問題点

今年始まったS-1バトル(AVメーカーの名前ではない)について、今週号のアエラに批判的な記事が掲載されていた。S-1バトルソフトバンクが開催するお笑いショーレース。SoftBank
吉本のお笑い芸人が携帯動画のコンテンツをアップロードし、それをソフトバンクユーザーが審査するという形式のものだ。月におよそ40作品が掲載され、月間でチャンピオンが決定する。すごいのはその優勝賞金額だ。月間チャンピオンは1000万円。さらに年末には12組の月間チャンピオンによる年間チャンピオン決定戦が行われ、その優勝者には1億円が授与される。1000万円を獲得した芸人はそれ以上のものを失うだろうということを、その記事は問いかけている。まさにである。麒麟の田村の例を待たずとも、「この人おどけてはいるけど、本当はお金持ちなんだ」という意識をもって、僕たちはそれ以降その芸人を笑えるだろうか。


さらに記事では触れていなかったが、このコンクールはもうひとつの問題点も含んでいる。審査するのはソフトバンクユーザーなのだが、ユーザー側の投票するモチベーションを維持するためか、各ユーザーに「お笑いIQ」なるものが設定されている。各ユーザーが投票した方の芸人が勝ち上がれば、そのユーザーの「お笑いIQ」の値が上昇する、というシステムだ。
しかしこのシステムだと、多数決投票でより多く投票されるであろう芸人に各ユーザーは投票したくなってくるのが必然だろう(一部のあまのじゃくをのぞき)。これは株式投資における「美人投票」の比喩と同じ構造だ。「一番面白かった人を決める投票」ではなく、「誰が一位になるかを当てる投票」になっていくのだ。するとやがては、より先鋭的なネタではなく、誰が見ても眉をひそめないような、あたりさわりのないネタが勝ち抜いていったり、芸人の単なるネームバリューによって勝敗が決するという方向になっていくかもしれない。普通に考えれば、「一番面白かった人」と「実際に一位になった人」が乖離していくことは免れないだろう。
しかもこの「ショーレース」は、やや公正さをかけた側面を持つ。ある芸人はひと月に2回コンテンツをあげていたりするのだ。どちらひとつが勝ち抜けばよいのだから、数多くコンテンツをアップできたほうが有利に決まっている。


そんな公正さの欠くショーレースで、今流行のM-1やR-1、キングオブコントなどのテレビ主催のコンテストの優勝賞金の「相場」である1000万円(一人当たりは500万円)に匹敵するような賞金が手に入ってしまう。そしてその1000万を稼ぎ出した芸人の中にはさらにその十倍の額をものにする者も出てくる。
言い方が悪いが、ケータイの小さな画面の中ででちょちょいっとネタをして軽々と稼ぐことのできる1000万円と、お笑い芸人の先輩後輩、あるいは舌の肥えた視聴者らの厳しい審美眼に耐えながらネタをして、かつライバルたちを蹴散らした上でやっとこさ獲得できる1000万円を、はたして同じ1000万円と考えることができるのだろうか。

ソフトバンクからすれば、「それができるだけの金があるのだからいいだろう」という話だろうが、それは強者の論理であって、そこには今のお笑いに対して好意的な環境をささやかに見守っていよう、守っていこうという意志は感じられない。あるのは消費だけだ。


小さな小窓で1000万円が「軽く」扱われる横で、相対的にM-1やR-1の価値が下落しいく。