いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

【書評】クイア・スタディーズ/河口和也

クイア・スタディーズ (思考のフロンティア)

クイア・スタディーズ (思考のフロンティア)

今年の11月は、同性愛をめぐる話題が多かった。5日には東京都渋谷区が「同性パートナーシップ証明書」を交付を開始すれば、昨日29日には海老名市議会のとある議員が、同性愛を「異常動物」と評し、大炎上となった。
海老名市議会議員が同性愛者を「異常動物」と表現 Twitterで謝罪 - ライブドアニュース

そんなさなか、奇しくもぼくが読んでいたのが本書だ。岩波「思考のフロンティア」シリーズの一冊。相変わらず、数式もでないのに横書きで非常に読みづらい。

一般的にクイア理論、クイア・スタディーズなどと言われているが、ぼくはこれまで、いわゆるLGBTについての研究だろ? ぐらいの漠然とした理解であったので、今回手にとってみた。

本書は、「同性愛」という概念が構築された1800年台後半から、ゲイやレズビアンの解放運動や、ゲイやレズビアンにまつわる理論、思想の変遷をたどり、90年台からのクイア理論へとつなげている。基本的には理論的な話がメインのため、なかなか頭を使わされる。100ページあまりだがけっこう読むのに時間がかかった。

「クイア」とはもともと「変態」「オカマ」を意味する侮蔑語で、それをあとから名指される側のLGBTが自称として使い始めたという、少しねじれた経緯があるという。
今では、ゲイやレズビアンといった性的指向のみでは回収できない、多様なセクシュアリティを対象としているという意味で、アカデミズムでは使われているそうだ。


クイアという概念が必要となった背景には、かつて考えられていた以上に、人間のアイデンティティが多様であることがわかってきたためと言える。

一口にゲイやレズビアンといっても十把一絡げにできない。また住んでいる場所や民族、階層のちがいもある。それら諸々の差異に目を向ける視点こそが、クイアと言えるかもしれない。

ただしかし、そうなると「クイア」そのものは「〜ではない」という否定形でしか語れない「本質なきアイデンティティ」となってしまう。

クイアのその状況を肯定的にとらえる向きもあるというが、一方で著者は、かえってゲイやレズビアンが同じクイアとして一緒くたに、ファッションとして消費される「皮肉」な状況もあることを指摘する。

たしかに、ぼくのまわりにもいた。定期的に自分は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が好きなのだと言って聞かせないと気がすまないサブカルクソ女!!!

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最後に、まるで昨今の「オネエブーム」を予見し、それにひとつの留保をつけているようにしか思えない箇所があったので、紹介したい。

 同性愛者の「ライフスタイル」は異性愛者、なかでも異性愛における様々な拘束に対するオルタナティヴを模索しようとする異性愛者にとっては幅広い選択肢を提供することになる。しかし、それは保守派が同性愛者を悪魔化したのとは対照的に(…)同性愛者(のライフスタイル)をエキゾティックなものとして他者化しているのだ。
pp.108-109

「他者化」とは「線引き」と言い換えてもいい。たとえ好意的であろうと、好奇のまなざしを向けることは、結果的に相手を自分とはちがうものだとする「線引き」をよりいっそう強く引いてしまうことになる、というのだ。

著者は、そのように消費される「ゲイのライフスタイル」が「現実のゲイの生活とは異なるファンタジーである」としながらも、そうした「ファンタジー」が「かつての主流文化のなかで形成された反ゲイ的なイメージを払拭する効果もあるだろう」と認める。


しかし、そうした状況の高まりによって、いま現にある問題が顧みられなくなる恐れもある、と危惧している。

 しかし、他方で、ファンタジー化されたゲイのライフスタイルのイメージは、なぜ異性愛者がゲイのセクシュアリティに不安を感じ、嫌悪するのか、その問題を不問に付す。いやそれどころかむしろそうした同性愛嫌悪の問題の存在を隠蔽することにもなってしまうかもしれない。
p.109


GENKINGがテレビに出て人気を得ていること、それ自体に何ら罪はない。GENKINGを無邪気に応援するファンの側も同様にだ。

ただ、そうした状況から、LGBTに対する差別がなくなったと判断することはできない。昨日の市議のおっちゃんの発言は、そのことをよく物語っている。

そして、同性愛を「異常動物」だと罵る身振りと、オネエタレントをそのアイデンティティゆえに持て囃すことは、全然ちがう営みのようでいて、実はネガとポジみたいな関係であることは、心に留めておいていいのではないか。