- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2010/04/21
- メディア: Blu-ray
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マイケル・ダグラスが、不運続きの日常でプッツン切れて、どんどん道を踏み外していってしまう哀れな中年男を演じる映画です。
この作品、映画史的にとりたててエポックメイキングな作品ではないのですが、どうしてか個人的には印象深い。というのも、子どものころに父が借りてきたレンタルビデオを、一緒に観た「鑑賞経験」として記憶に鮮明と残っているのです。死んだ父は映画が好きで、ぼくもよく一緒に観たはずなのですが、そのなかでもとりわけこの作品を見た記憶が色濃く残っています。
ダグラスが演じる男について、子どものころは「身勝手で気の短い狂人」くらいに思っていました。彼の行動は最初のほうですでにぶっ飛んでいる。なわばりを主張するギャングをぶちのめせば、彼らから奪った自動小銃をファストフード店でぶっ放す。到底、共感できるような類のものではありません。
けれど、いまもう一度観返してみると、彼がああなるのには、彼なりの理由があるように思いますし、同情せざるを得ないところがある。
この映画の海外のポスターなどには、"The adventures of an ordinary man at war with the everyday world"とあります(赤い下線部)。
訳すとすれば「日常という名の戦時下にある普通の男の冒険」でしょうか。つまり、映画はあくまも「普通の男」と彼を表現している。狂人などではない、というのです。
事実、見返してみても、彼は冒頭から他人に対してきわめて紳士的で、善良にふるまおうとする。また、彼の行動原理は、特定のイデオロギーが染まっているわけではない。道中で彼を同胞だと勘違いしたネオナチ野郎との関係の破たんが、その証拠です。
彼はあくまでも「普通の男」なのです。けれど、そんな彼なのに、人生なかなか上手くいっていないことが、映画では徐々にわかってきます。「普通」の男を演じているのに、彼には見返りがないし、そんな彼の労をねぎらい、慰めてくれる人もいない。そんな「普通の男」が、ついについに爆発してしまった。あるいはこうも言える。「普通の父親」「普通の家庭」であろうとする思いが強すぎたばかりに、ぶっ壊れてしまった……。
そこではたと気が付いたのですが、実はこの映画でのダグラスの役柄は、風貌も含めて父とよく似ていたのです。父は家族に暴力こそ振るいませんでしたが、仕事で嫌なことがあると、家に帰るや否や怒鳴り散らすことが何度もありました。
そうすると、なぜ彼と多くの映画をともにみた経験の中で、この映画についてはっきり覚えているのかもわかります。ぼくはたぶん、父とともに観たこの映画を通して、父本人を観ていたのかもしれない。彼もまた、家庭、職場で「普通」の牢獄の中で押しつぶされそうになりながら、懸命にそれを演じ通した一市民だったのでしょう。