いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】96時間/レクイエム

リーアム・ニーソンが演じる最強の元CIAエージェント、ブライアン・ミルズが、最愛の娘、別れた元妻のために戦うシリーズの完結編。
今回は前2作と異なり、大きな「喪失」をもって物語がスタートする。元妻のレジーナが何者かによって殺害され、あろうことかその容疑がブライアンにかけられてしまうのだ。かけつけた警官2名をあっという間にボコり(彼の前では「警官2名」など何の威力にもならない)逃走した彼は、追手を振り切りながら、元妻殺害の真犯人の正体をさぐることとなる。

帰ってきた「最強✕最愛」のギャップ萌え

3作も続くというのには、ブライアン・ミルズというキャラクターそのものに多くの人が魅了されているのだろう。今回も、愛娘の前では子犬のように相好を崩す彼だが、いざ娘がピンチとなると鬼神のごとく敵に立ちふさがり、問答無用でブチのめす――彼の“ギャップ萌え”成分は健在。
ぼくを含め男性鑑賞者の多くが彼に憧れ、同時に畏怖する背景にはおそらく、「彼女の父親」という存在に対しての原初的なコンプレックスがあるのだろう。そう、彼は「彼女の父親:ウルトラハードモード」なのだ。どんなに愛する彼女でも、ブライアンが父親だとわかったら、100年の恋も冷めるというもの。

失われた大切な要素

ただ、一方で今回はそのブライアンの着火点となるある要素が抜けていることも、指摘しておかなければならない。ずばりそれは「娘の誘拐」である。原題「TAKEN」が物語るように、過去2作は最強の父が、最愛の娘を救い出すということが物語の肝であった。
ところが今回の使命は救出でなく、あくまで別れた妻の殺害事件の捜査と、追ってから逃亡が主眼にあるため、彼の娘を奪われた底知れぬ悲しみ、そして敵キャラに同情したくなるほどの怒りが、あまり伝わってこない(最後の最後に申し訳程度に「TEAKEN」はあるが……)。
またアクションも、前2作に比べると心なしか物足りなく感じた。御年62歳のニーソンを慮った演出なのかもしれないが、カット割りが極端に短く、何が起きているのかわからなくなる場面も散見された。
さらにいえば、第1作と前作「リベンジ」との間にあった「同害報復」をめぐる美しい相関関係に、この3作目がうまく配置できないところもちょっと気になるところだ。

「追跡者」ウィテカーさんのよい仕事

その分、今回はある別の要素が映画をアツくさせる。フォレスト・ウィテカーが演じる「追跡者」の存在である。
予告をちゃんと観ていなかったので気付かなかったが、彼が出ていることを知って劇中小躍りしそうになった。捜査班を指揮する敏腕刑事として、ブライアンを追跡する。
この頭脳明晰な逃亡者と追跡者の関係は、どこかハリソン・フォードトミー・リー・ジョーンズ共演による名作『逃亡者』を思い起こさせる。欲を言えば、もう少し「狐と狸の化かし合い」的な要素を組み入れたら、もっと引き込めそうだったのだが……。

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事件の真相などはもちろん伏せておくが、最終的にわれわれ鑑賞者は、この3部作に「娘の成長」という裏テーマがあったことに気づく。
ということは、である。3部作とはいうものの、娘の危機が迫るたびに彼が戻ってくる、かもしれない。