いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

【映画評】悪堕ちする綾野剛が悲しくてセクシー「日本で一番悪い奴ら」

 

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白くて汚れのないものほど、肥だめに突き落としてみたくなるのは、ぼくだけの倒錯した性癖だろうか?

 

「凶悪」の白石和彌監督による「日本で一番悪い奴ら」は、北海道県警に実際に起きた、拳銃所持犯罪の検挙数をあげるためにあろうことか警官が銃の売買に手を染めていたというとんでもない不祥事を題材にした映画だ。

2002年に覚せい剤取締法違反や銃刀法違反などの容疑で逮捕された稲葉圭昭氏のルポタージュがモチーフになっており、綾野剛が主役を演じ切っている。

 

柔道の腕前を買われ、道警に入った諸星要一(綾野)。

公共の安全を守り、市民を犯罪から保護するためです

警察になった理由を聞かれるたび、馬鹿の一つ覚えのようにそう繰り返していた青年が、いかにして「日本警察史上、最大の不祥事」を起こすまでの悪に落ちてしまったのかーー

 

悪いお兄さんに誘われて…

素朴な青年だった諸星だが、彼をやばい道にいざなうのはピエール滝の演じる先輩刑事だ。

ピ瀧は「凶悪」でも無茶苦茶怖いやくざを好演していたが、本作ではやくざにしか見えない先輩刑事として登場する。

iincho.hatenablog.com

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公共の安全なんて誰にも守れねえ

マジで安全な社会にしようと思ったらな、産婦人科医になるしかねえよ

生まれてくるガキ、皆殺しにするんだ

誰も生まれてこなきゃ、安全だろ?

人間様が生きてる限り安全な社会なんてありえねえ

必ずおかしなやつが生まれてくるからな

俺らの稼業は、そのおかしなやつらがひり散らかすクソの掃除だ

 

ピ瀧ははなっから正義など信じていない。

彼が象徴するように、警察社会を支配するのは正義なんかではない。

彼の若頭みたいな風貌と物言いは、警察と闇社会の間に本質的な違いはない、というこの世界の説明書になっている。

そのかわりにピ滝は諸星に、警察社会における絶対は犯罪の検挙で加算されていく「点数」であることを吹き込む。

 

俳優・綾野剛のレンジの広さ

何よりもこの映画、綾野が演じている役柄のレンジの広さに驚かされる。

いうならば、(精神的に)女の子に触ったことすらない童貞から、チンコの乾く暇もねえというヤリチンまで演じているのだ。こんなレンジはなかなかない。

順番で行くと、好青年 → 悪徳警官 → チンピラ → やくざ → ジャンキーの順である。

 

また、綾野に関してはこれまでこんだけ濡れ場を演じたことはないだろ、というぐらい脱ぎまくっている点も注目だ。
話は前後するが、矢吹春奈をバックで突きながら「俺、日本一の警官になるんで!」って、倒錯しすぎててもうなんも言えねえごちそうさまでした

ソープでうっかり入っちゃうシーンもよかったぞ。

 

クソはどこに行けば見つかりますか?

諸星は最初から悪人だったわけではないが、善人だったわけでもない。

象徴的なのが、先述したピ瀧のセリフの後に諸星がした質問だ。

あの…クソはどこに行けば見つかりますかね?

 

諸星はピ瀧の性悪説に反感を持たない。それどころか、まるで遠足に持って行っていいものを聞くかのような純真な面持ちでそう尋ねている。

諸星の中に最初は何もなかったのだ。なんの思想もなく、空っぽ。

唯一、彼にインストールされているのは、部活で培われた「上の言うことは絶対」という徹底した体育会系メンタルだ。

素直で従順な人間は染まる色を選ばない。悪にだって染まろうと思えば染まってしまう。

そんな彼が、地方警察という上意下達のピラミッド機構と運命的(悪魔的)な出会いを果たしてしまうのだ。

 

諸星は「点数」稼ぎが自己目的化した警察世界の倒錯において、不適切な捜査手法に始まり、犯罪そのものにもなんの躊躇もなく踏み出していく。

何の疑いもなく悪に汚れていく諸星=綾野が恐ろしくもあり、セクシーだ

 

2016年の映画とは思えない昭和感

忘れてはならないのは、この映画の美術、ロケーションである。70年代から00年代までが描かれているのだが、とくに前半の70、80年代がすばらしい。もちろん撮り方も。

2016年に公開された映画とは思えない、ほこりをかぶったかのような映像である。

 

キャバクラで警察もやくざもの別なく楽しむ姿に、深作欣二監督の「県警対組織暴力」を思い出したのは僕だけだろうか。

 

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脇をかためる俳優陣も素晴らしい。

ピ瀧はもちろんのこと、諸星と兄弟盃を交わすやくざを演じた中村獅童もいい。

女優陣もすばらしい。「凶悪」に続いての白石作品への出演となった松岡依都美は、キャバクラでほんの一瞬の出演だったが存在感があったし、なによりもあの矢吹春奈である。この映画で余すことなく濡れ場に挑戦している。俺の青春が…(感涙)

彼らが退場して最後に残ったのがデニス植野ってどないやねんではある(ただ、彼も胡散臭い外国人役の存在感は素晴らしかった)。

 

彼は変わったのか、変わってないのか

物語の途中では、諸星が後輩警官(中村倫也)に警官になった目的を尋ねる。

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後輩が答えたそれは、諸星が警察になっていたころ、馬鹿の一つ覚えのように繰り返していた言葉そのものだ。

そのときの綾野の後輩を見る表情が絶妙だ。にらみつけているのか悲しんでいるのかはっきりしない表情で、目を細める。銃を買う金に困り、消費者金融にも貸し渋りにあい、ついにシャブの売買に手を染めてしまった彼。俺の手はこんなに汚れちまったよぉ……という表情なのだ。

 

終盤、ついにどん底までいってしまった諸星。彼を地獄まで突き落としたのは警察組織である。

けれど、そんなになってまでも、まだ組織に対する忠誠を誓う諸星の満面の笑顔が物悲しい。

まるでそれは、イノセントだったころの諸星の笑顔のままなのだ。こんな切ない笑顔があるだろうか。

 

彼は昔と変わったのだろうか? 変わっていないのだろうか?

それはもう誰にもわからない。

 

参考記事

jp.vice.com

s-iroha.jp

gendai.ismedia.jp