いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

【映画評】手紙は憶えている

ホロコーストを題材にしたサスペンスです。認知症を患い記憶がすぐに飛んでしまうおじいちゃんが、家族を殺したナチス親衛隊の男に復讐するため、同胞の記した手紙だけを頼りに、当てどもない旅をするロードムービーです。


アイドル(とその周りの関係者)が知らずにナチ風軍服を着て世界的に顰蹙を買ってしまうほどホロコーストは極東のこの国では風化しつつありますが、当事者が多い欧米においても当時10代であった当事者ですら今や80代、90代ぐらいでしょう。「死にかけて記憶があいまいになったホロコースト当事者」の映画は今後増えていくかもしれません。

出てくるのは人の好さそうなおじいちゃんばかりですが、内容はなかなか血みどろの復讐劇です。記憶がすぐに飛んでしまう主人公が、書き物に導かれて事件を追うというと、どうしてもクリストファー・ノーランの「メメント」を思い出してしまいますが、本作もそんな一面があります。

容疑者は4人。主人公は一人ずつ、何食わぬ顔をして会いに行き、確かめていきます。大どんでん返し系の映画なので、ネタバレをさけつつ内容を語るのは困難ですが、精神分析的な映画であるのは確かです。

精神分析の考え方では、人が自分で自分を偽ることがままあり、これを防衛機制と言います。あまりに酷い事件に際しては、被害者やその遺族のみならず、加害者側にも罪悪感が重くのしかかる。本作の結末は、そうした罪悪感に対しての「防衛機制」=“自分で自分に対してつく嘘”といえるかもしれません。

映画のすべてを知ったとき、観客はラストカットで映る老人特有のうちくぼんだ瞳の深さにゾッとすることでしょう。