いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

岸部四郎を追悼 『ガキ使』“落とし穴回”を説明する東スポにモニョッたので訂正してみる

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岸部四郎が亡くなった。

もうずい分前からメディアで見ていないので「過去の人」といえばそれまでなのだが、それでも一抹の寂しさを感じてしまうのは、『ガキの使いやあらへんで』での通称「落とし穴回」が脳裏にあるからだろう。ぼくにとって岸部さんといえば、これなのだ。

借金で首が回らなくなり、自己破産。メディアの表舞台から姿を消した当時の岸部さんが「元金持ち」という絶妙な鼻持ちのならなさ、セコさを武器にプチ復活していたのも、この回があったからこそといっても過言でもない。『ガキ使』とダウンタウンが岸部さんを「再定義」したのである。

 

ぼくだけではない。ツイッターで「岸部四郎 ガキ使」あるいは「岸部四郎 落とし穴」と検索すれば、無数のツイートがあることからも、「落とし穴回」が多くの人にインパクトを残していたことがうかがえる。ソフト化されておらず、現在、正規のルートでは視聴することができない18年前も前に放送された映像が、である。

 

そんな中、東京スポーツがこの『ガキ使』の「落とし穴回」について好意的に紹介する記事をアップロードしていた。

好意的ではあるのだが…その記述が、絶妙に絶妙に、スポーツ紙にありがちなバラエティの誤読というか、絶妙にモニョモニョする、背中がくすぐったくなるような「ミスリード」をしているのである。

 

この記述を読むだけでは、あの名作「落とし穴回」がサブくなってしまう。その危機感から、ここに訂正する記事を上げておきたい。

お笑いを解説するほうがサブいのでは? という指摘はごもっともで、これを書く時点でぼくも「サブい」のである。しかし、自分のサブさを犠牲にしてでも、これは訂正しておかなければなるまい、という「使命感」から下記を記しておきたい。以下、お笑いオタクがすさまじい早口で話していると脳内で想像しながら読んでもらいたい。

 

東スポは下記のようにこの企画を説明している。

 なかでも2002年放送の日本テレビ系「ダウンタウンガキの使いやあらへんで」の〝ドッキリ企画〟は「神回」との呼び声も高い。

 これはウソ企画で呼び出された岸部さんが、行く先々で落とし穴にハマっていくというもの。計4度も落とされた岸部さんは次第に壊れていき「俺を誰や思うてんねん! 元金持ちやぞ!」「もう、カネしかないなあ!」などと名言を連発。最後はロケバスの中でプロデューサーとギャラ交渉するのだが、あのダウンタウンの2人が笑いをこらえるのに必死なほど、〝笑いの神〟を身に宿していた。

 

まず、この回の説明で使われている「ドッキリ企画」「ウソ企画」といったワーディングが、この書き手の理解を根本的に疑わざるを得ない。

 

番組では「ドッキリ」などという説明は一度も説明していない。別に、『ガキ使』メンバーのダウンタウン、ココリコ、山崎邦正(現・月亭方正)は岸部さんをドッキリで落とし穴に落とします、と事前に宣言していたわけではない。

あくまでも番組では、『ガキ使』メンバーが「男と男の手料理対決」という素朴なロケ企画をしているという体(てい)なのだ。

そこに、ゲストの岸部さんが呼び込まれるのだが、なぜか落とし穴に落ちてしまう。どうも、前の番組で作られた落とし穴がそのまま放置されていたらしい。驚いた『ガキ使』メンバーが岸部さんを助け出すが、なぜか岸部さんだけがまた別の落とし穴に落ちてしまう。怒る岸部さんをなだめて、ロケを再開するも、やっぱり岸部さんだけ落とし穴に落ちて…という展開だ。

 

「ドッキリ企画」と評したことに先に疑義を挟んだが、なにもこれが「ガチ」であると言いたいのではない。逆である。これは一種の不条理なロケコントである。『ガキ使』メンバーはもちろん、当人も落とし穴に落ちることを折り込み済だろう。

 

もともと、ダウンタウン岸部四郎を“お笑い的にフォトジェニックな存在”として買っていたフシがある。その証拠に、『ガキ使』の数年前、『ダウンタウンのごっつええ感じ』において、あるゲストを使って面白い写真を撮るという対決企画が数回あり、ある回の被写体として岸部さんが招かれていたことがある。

 

そうしたお笑いフォトジェニックとしての岸部さんの魅力に、さらに自己破産という「生き様」が積み重なった。それらが合わさって「なぜか岸部四郎がなんども落とし穴に落ちてしまう」という状況が、不条理でいてたまらなく面白いのだ。

それを単なる「ドッキリ」と評されると、非常にモニョるし、背中が痒くなってくる。なにも知らない岸部さんを落とし穴に落としたリアクションが面白いのではない。「なぜか落とし穴に落ちる岸部四郎」という状況が面白いのである。そして、これが単なる「ドッキリ」であるならば、後世に語り継がれる企画になっているはずがない。

 

さらに細かい点に目を向けるなら「『俺を誰や思うてんねん! 元金持ちやぞ!』『もう、カネしかないなあ!』などと名言を連発」、こうした書き方も、ネットニュースに特有なのだが、ちょっとサブい。

これらの発言が、岸部さんの内発的な言葉である可能性もゼロではないが、「名言」と言い切るのもなにか違う。例えば、ドラマ『半沢直樹』で堺雅人がしゃべった言葉を彼自身の「名言」だと記事にしたら誰もが首をかしげるだろう。岸部さんの言葉だって、「名言」と言い切られると、それまた少し違うような気がしてくる。

 

とにもかくにも、あの「神回」は「ドッキリ」などとは企画意図、原理からしてなにからなにまでちがうのだ。

 

あーあ! サブくて気持ち悪い記事書いちゃったよ!