ポーランド発の映画『聖なる犯罪者』は、とある犯罪で少年院に収監されていた青年が、出所するところから始まる。この男、ダニエルは収監中に宗教に目覚め、カトリックの司祭になりたかった。しかし、罪を犯した彼に神学校の道は閉ざさされている。彼にはあてがわれた作業所で働くしか道はない。
せっかく目指す道が見つかったのに、諦めざるを得ないことに不貞腐れたダニエルくん。出所して早速、酒にドラッグに姦淫に、と堕落の満漢全席をキメてやさぐれる。
ああチクショー面白くねえと思いながら、作業所の村を訪れたところ、ひょんなきっかけで、その村に新しく招かれた司祭だと勘違いされてしまう。
あれよあれよという間に信頼され、持病が悪化した年配の司祭に代わりに村を任され、ついには村人の告解を引き受けてしまう始末! そのまま、ええいままよと司祭になりすますことを決意する。
そんなダニエルに息を吹き込んだのは、28歳のバルトシュ・ビィエレニア。この人、普通にしていたらそこそこイケメンに思えるのだが、ときおりカッと見開いたときの目ヂカラが凄まじい。予告編でも使われているが、出所後のクラブのシーンでの(おそらく)ガンギマリで一心不乱に踊るシーンの顔面が怖すぎ(動画の1分6秒ごろから16秒ごろ)。自宅で人の生首をコレクションしてる狂人にしか見えないのだけれど、一方、一生懸命「司祭」を演じようとするぐう聖ダニエルくんは、まるで別人。そうした多面的な彼を、見事に演じきっている。
ここまでの展開ならば、「ある集団に異分子が紛れ込み、徐々に信頼を獲得しながら同時にその集団を乗っ取ってしまう」というよくあるパターンが脳裏に浮かぶのだけど、本作はそれらとはちょっと違う。本作のメインとなるのは、うっかり司祭になりきっちゃったダニエルくんの「バレる!? バレない!?」というハラハラドキドキ要素なのだが、もう1つ別の要素がある。
それは、ダニエルくんが村を訪れる1年前に起きたある悲惨な事故だ。この事故をめぐり、村人たちは「加害者」への憎しみを忘れられないでいた。偽司祭のダニエルくん、何をトチ狂ったのか、この紛争を仲裁しにかかるのだ。おまけに、宗教的な素養はほとんどないはずの彼だが、どこから学んだのか謎の絶叫療法みたいなのを考案して、悲しみに沈む遺族たちを癒やしちゃったりする。まさに嘘から出た真!
事故につい手調べていくうち、ダニエルはその多面的な真相にたどり着くことになる。それは、どちらかが一方的に正しいとは言えない真相だ。その状況は、彼自身にも通じている。邦題である「聖なる犯罪者」。「うんこ味のカレー」のようなものだが、果たして彼は聖人なのか邪人なのか。どちらとも言えないし、どちらでもある。
予想していたほど直接的な残虐な描写や人間の醜さが描かれることは希薄だが、強烈なインパクトを残す1作だ。