ここ最近のコロナの影響で、家にこもりがちとなり、ますますNetflix、アマゾンプライム・ビデオへの依存が加速しているのだが、今回は掘り出し物の一作を紹介したい。
京都芸術大学在学中に阪元裕吾監督が撮った本作『ハングマンズ・ノット 』は、カナザワ映画祭2017「期待の新人監督」グランプリ受賞、インディペンデント・スピリットに溢れたバイオレンス・ムービーだ。
本来、舞妓とお寺が専売特許のはずの京都を舞台に描かれるのは、2つの暴力の世界だ。
松本卓也演じる影山アキラと、安田ユウが演じるその兄・影山シノブの兄弟が支配するのは、目を覆いたくなるような非道な性と暴力の世界。
そこには慈悲はない。幸せそうなカップルは、ほんのささいな理由で彼女が犯され、彼氏は金属バットでボコボコにされる。帰宅途中の何の罪もない女子高生は、ワゴンで拉致られてクズリ漬けにされた挙句に輪姦される。当然のように、河原のホームレスの家が焼き討ちにあう。
対するのは、吉井健吾演じる大学生の柴田さん。柴田さんは群れない。いや、そんなにかっこいいものではない。他者とのコミュニケーションに難がある孤高のコミュ障だ。一見なんの変哲もない、ダッフルコートにメガネという出で立ちの男子学生なのだが、電車の中で奇行を繰り出し、乗客たちの注目を集める部類の人である。
さらに、その奇行を撮影していた同じ大学の女子学生が自分のことを好きなのだと思いこむ勘違いもぶり、迷惑甚だしい厄介者だ。コミュ障を通り越してサイコパス。彼もまた、影山兄弟とはまた別の意味で、生と死の境界を軽々と超えていってしまう恐ろしい男なのだ。
頭のおかしなヤンキーと頭のおかしなコミュ障。別の意味で「怖い」2組だが、両者は「道徳」への向き合い方において、定義づけられる。
影山兄弟の立場はいわば“反”道徳であり、道徳に徹底的に抗い続けている。対する柴田さんは“非”道徳だ。道徳に抗っているわけではない。彼は初めから道徳がない世界を生きている。
反道徳と非道徳。2つの勢力は、京都を舞台に別々に活写されるのだが、クライマックスで激突することになる。しかしそれは、あくまでも偶然の荒々しい衝突事故だ。
その先にあるのは、反道徳と非道徳の激突のすえに平和な世界が訪れる…という安易な結論では毛頭なく。
それまでと同じように、いや、それまで以上に、両者の激突で、心優しい人々やなんの罪もない(強いて言うなら運が悪かった!)普通の人々がまきこまれ、酷い目にあっていくのだが、ぜひそれは自らの目で確認してもらいたい。
最後には道徳が勝つ、みたいな安易な結末を一ミリも残さない、突き放したかのような終わり方もまたクールである。
この自粛期間に、騙されたと思って観ておいてほしい一作である。