いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

必見のドキュメンタリー『M-1アナザーストーリー』 「横の線」と「縦の線」の凄み

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見よう見ようと思っていた昨年の『M-1グランプリ2019』の舞台裏を追ったドキュメンタリー番組『M-1アナザーストーリー』をようやく観た。

M-1好き、いや、お笑い好きは全員正座して観るべきドキュメンタリーだった。今月26日まで観られる。

 

tver.jp

史上最多5040組がエントリーしたM-1グランプリの決勝戦は“史上最高レベル”と評される激闘となった。観客を爆笑させ、審査員をうならせたのは、王者ミルクボーイだけではない。
密着カメラが捉えたのは、わずか4分間の漫才に夢を馳せた“芸人たちの生き様”だった。

今大会の決勝進出組決定から、その9組+敗者復活組によって繰り広げられた本番、そして雌雄が決したあとまでを追いかけたドキュメンタリーである。

詳しい内容はぜひ観てほしいのだが、内容とは別で圧倒されるのは、制作のABCテレビM-1にかける思いがあらわれた「横の線」と「縦の線」である。

 

ミルクボーイが優勝したので、もちろん彼らがドキュメンタリーでも主軸になるのだが、番組のカメラはまるで「ミルクボーイが優勝するのをはじめから分かっていた」かのように、彼らを取材している。

これはどういうことかというと、何もM-1八百長を告発したいのではない。

優勝候補にあげられるでもない、全国区ではほぼ無名だったミルクボーイを優勝前から丹念に取材していた、ということは、裏を返せば残りの(敗者復活組を除く)8組についても同じぐらいきちんと取材していた、ということが伺える。

たった40分の番組であり、ミルクボーイのパート以外のほとんどの素材は使われていないはずだ。ミルクボーイの優勝までのストーリーを鮮やかに浮かび上がらせたように、ほかの8組が優勝していたとしても、それは可能だっただろう。

9つのうち、8つの取材がほとんど使われない、と分かった上で、ABCテレビは取材クルーを各コンビに回させたのである。

この番組を観て、まずこの「横の線」の強さに驚かされる。

 

一方、「縦の線」とは何か。それはこれまでのM-1の歴史に関係する。

この番組を観ていくと、横線以上に驚かされるのは、ミルクボーイの2人がまだ学生だった2006年のM-1予選に出場したときのインタビューも使われていることだ。つまり、ABCは10年以上前の無名の学生の映像もアーカイブしていたのだ。

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2006年だけではない。番組では2006年から2010年、中断を経ての2015年からのミルクボーイの映像も流された。

この「縦の線」の貴重さの度合いは、「横の線」のそれを遥かに凌駕するのは誰にでも分かるだろう。もう誰も今から「2006年のミルクボーイ」にインタビューすることはできないのだ。かまいたちのネタではないが、「時間の壁」に守られているのである。そして、アーカイブしておく手間、コストもはるかに大きいことが推測できる。

 

2006年の取材をしたスタッフたちの意図は分からない。

しかし、そのスタッフたちが「2006年のミルクボーイ」「2007年のミルクボーイ」…と撮りだめていった映像が、時を経て昨年2019年に意味を持った。ひとつひとつでは心もとない点と点が、昨年末についに一つの強靭な線になる。そのプロセスを知ると、一種の感動を覚えてしまう。

 

こんなことを言うのはあれだが、「2006年のミルクボーイ」を撮った人はおそらく、彼らに特別な思い入れがあったわけではないだろう。

いや、正確には、「彼らに“も”思い入れがあった」というべきか。

おそらく、膨大な映像資料を撮りだめ、廃棄することなく保存していた背景には、漫才の頂上決戦という崇高な頂きに登ろうとしている意志を表明した者全員への、ある種の敬意があるのだと推測する(ちがったらすいません)。

 

今年のドキュメンタリーで使われなかった素材も、もちろん「死蔵」したわけではないはず。来年、再来年、もしかしたら3年後、使われるときを待ちながら眠っているのだろう。紡がれるべき次のストーリーを求めて。