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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

『ターミネーター:ニュー・フェイト』過去作を犠牲にしてでも作られるべきだった理由

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 『ターミネーター:ニュー・フェイト』。言わずと知れた超大作シリーズの続編で、今回、宣伝でも「正当な続編」と銘打たれたように、主役ではないものの、アーノルド・シュワルツェネッガーリンダ・ハミルトンが再登場するのが目玉の一つだ。


 めちゃくちゃよかったのでレビューを書きたいのだけれど、どう考えても核心部分のネタバレは外せないので以下、ネタバレ全開で活かせてもらう。

 

 

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過去作ファンへの仕打ち!?

 まず衝撃的なのは、ジョン・コナーが冒頭であっさり殺されてしまうことである。これは何より驚いた。死んだ…嘘よね〜ん、でもない。マジの死。

 なんでそんなに驚くかって、91年公開の『ターミネーター2 審判の日』では、母サラ・コナーとT-800(シュワ)があんなに苦労して形状記憶合金野郎から守ったジョンなのである。復習がてら先日見た『T2』でも、キューティクルセンター分け男子のことをしっかり助けていた。だからこそ泣けるのが溶鉱炉ダイブだったのだ。

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今回の公開に合わせ、TOHOシネマズ新宿前に設置された溶鉱炉グッジョブ像(筆者命名)。この名シーンも、今回も作品によって特に意味がないものに…。

 それがなんと、そのわずか数年後にまた送られてきたシュワに撃ち殺されていた、ということが語られたのだ…!これが「正統な続編」の仕打ちか!?


  『T2』ジェイムズ・キャメロン監督といえば、かつて自身の作品のキャラクターが同じ運命を辿ったことがある。『エイリアン2』で、リプリー(シガニー・ウィーバ-)がせっかく助けた少女ニュートが、続くデヴィッド・フィンチャーが撮った『エイリアン3』冒頭であっさり死んだことにされるのだ。あれもこう「『2』の見方が変わってしまうがな…」と衝撃を受け、唖然としたものであるが、今回のジョンの死はそれを超える。

 

 また、ジョンの死は、『T2』以降のターミネーター3』『ターミネーター4』そして、『ターミネーター:新起動/ジェネシス』が、別の時間軸のものとして完全に切り捨てられたことを意味する。『T2』の余韻、そして『T3』以降の過去作を別の時間軸へと廃棄してでもなお作るほどの続編だったのか。ぼくならば、「まさに」と肯定する。

 

『T1』の焼き直し? と見せかけて…

 ジョンの死に困惑するヒマもなく、ストーリーはテンポ良く進む。

 本作はメキシコシティが出発点。ヒロインのナタリア・レイエス演じるダニーの元に、未来から悪のロボットと正義の使者が送り込まれる。死にものぐるいでダニーを守る者と、是が非でもダニーを殺そうとする者のし烈なバトルがおっぱじめられる。

 正義の使者グレースを演じるのは、遼河はるひみたいな長身美女マッケンジー・デイヴィスで、これがまためちゃくちゃかっこいい。小柄なナタリアとのコントラストも相まって、今作で最も華がある役どころだ。

 

 
 
 
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 ちょっと待て、未来からやってきた悪者と正義の使者が人類の命運を握る主人公をめぐって攻防を…ってそれ、まんま『T1』と同じやんけ! というツッコミどころで、本作にはすでにそうした「焼き増し」批判もネットでは見かける。

 しかし、この「焼き増し」は十二分に戦略的なのだ。

 

巧みなミスリードを誘うサラ・コナーの言葉

 ここで、観客は見事にミスリードされる。そうか、今回はダニーの子どもが人類の鍵なのか、と。サラも自分がそうだったように、ダニーに「敵はあんたが怖いんじゃない。あんたの子宮が怖いんだ」という、少々ドギツイ言い回しで説明し、観客の思い込みを肯定しかける。

 しかしその後、未来で起きること少し違ったことが明かされる。未来でグレースが信奉している司令官は、実はダニーその人だったのだ。

 グレースは、勇敢に成長した未来のダニーに救われ、彼女と共にAIとの戦いに身を投じ、そして今回現代でダニー自身を助けるために送り込まれたのだ。

 

過去作の批判的な“アレンジ”

 この展開は、『ターミネーター』シリーズの批判的な“アレンジ”であることは言うまでもない。

 サラも『T1』では敵方の標的だったが、これは何も彼女自身が狙われていたわけではない。彼女がいつか身籠もるジョンが標的なのだ。だから、ジョンが生まれた後を描く『T2』では一転して、彼を守る側に回る。彼女自身が言ったように「敵はサラが怖いんじゃない。サラの子宮が怖い」のだ。

 でもこれはよく考えてみれば、背景に冷酷な思想が見え隠れしていることに気づく。例えば、サラが死んだとて、その子であるジョンが生まれさえすれば人類は誰も困らない…。「お世継ぎ問題」に似た不気味さが残るのだ。

 「敵はあんたが怖いんじゃない。あんたの子宮が怖いんだ」は、意地悪に言い換えれば、「あんたが重要なんじゃない。あんたの子宮が重要なんだ」ということなのだ。

 『T1』『T2』に慣れ親しんでいるものほど、この事実に麻痺しがちである。

 

 しかし、ダニーはグレースたちに守られるだけの役目を拒否し、自ら、未来からの刺客に相対することを決意する。最初はメソメソ泣いてばかりいた彼女は、次第に強い自立心に芽生え、成長していく。その延長線上には、もちろん、未来で人類のリーダーとなる姿がある。

 

 本作は、過去作のストーリー構造(「あなたが大切なのではなく、あなたの子宮が大切なのだ」)を想起させつつも、実はそうではないと否定し、ダニーに対して「私自身が何よりも大切で、私が戦い、未来を作る」という決意をもたせる。

 同時に、ジョンという生きる意味を失ったことで失意のまま孤独に戦い続けたサラに対しても、息子がいなくたって、あなたには生きる意味がある、というメッセージ性において、彼女にも救いを与える。

 

過去作を“廃棄”してでも作られるべき快作

 なお、賛否両論のバトルシーンだが、ぼくはかなり好きである。特に、主人公らがめちゃくちゃ強い敵に対して総力戦で挑むシーン、血が熱くたぎってきた。
 また、今回新登場の悪役も、ダメージを食らった部分がタールみたいになるビジュアル、また、部下みたいなのと二手に分かれるシーンはよくわからなかったが、その不可解さも含めて好きである。

 とにもかくにも、名作『T2』の余韻と、『T3』を時間軸の彼方に廃棄してでも作った甲斐があった本作『ターミネーター:ニュー・フェート』。文句なしだ。

 どう見てもロボットの演技する気がねえだろというシュワちゃんはご愛嬌、ということで。