いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【マンガ評】セルフ / 朔ユキ蔵


突然ですが、みなさんは自慰行為をどのようにとらえていますか?
人には言いにくい、恥ずかしい、みじめな行為だと思っていないですか。そうした自慰行為に対するネガティブなイメージを覆さんとするのが、本作「セルフ」であります。


主人公は、図書館スタッフの陽一。異常なほどセックスをせがんでくる可愛い彼女にも恵まれ、他人からしたらうらやましいかぎりの人生のはずが、どこか生きている実感が湧かないという。そんな彼は生まれてこのかた、自分で致したことがなかったのです……。ひょんなきっかけで陽一は、最高の自慰を求めての修行を開始することになります。


全編、自慰行為に対する異様な情熱に包まれた作品です。笑っていいのか笑ってよくないのかわからない、不思議な熱量です。
陽一は隣りに引っ越してきたお姉さんに誘われて初体験をして以来、生まれてこのかた自慰をしたことがない、うらやましいじゃねーかバカやろうとなるところですが、この作品はその状況を「性器のドレイ」ととらえなおす。

ここにセックス=羨ましくない怠惰な性、オナニー=求道者の性という本来ありえない等式が成立するのです。

面白いのは、なぜ陽一はそんなに女にモテるのか? という根本的な疑問が解かれる場面。それは動物行動学的にささやかれているとある「説」ですが、本作は異性からの「モテ」が本人の努力や修練とは関係ないところで勝手に決まってしまうことだと定義する。セックスは自分では何ともならないもの、オナニーこそが自分の努力が重ねるほど向かわれるもの、というのですね。な、なるほど……。


青年誌ということもあって、エロ描写もあり、また、可愛い女の子が何人も登場します。
しかし、それらは読者にとって「オカズ」になっても、作中人物にとっては絶対にご褒美にならない。その点は徹底しています。

オナニーを捉え直す問題作(?)であります。