ちまたにはまだまだシン・ゴジラ旋風が吹き荒れている中、日比谷シャンテで観てきました。観る前には「シン・ゴジラ」もう一回観てやろうかぐらい悩んだのですが、いやはやこちらに行って大正解でした。「シン・ゴジラ」も大切なことを教えてくれましたが、本作「ニュースの真相」も、まったく別ジャンルの映画であるものの、きわめて今日的な、我々としては笑えない事態を活写しています。
本作は、ブッシュ前米大統領が再選を決める2004年の大統領選間際に降ってわいた彼の「軍歴詐称疑惑」と、それを報じたCBSの看板ニュース番組「60ミニッツII」の動向を描いています。当時の番組プロデューサー、メアリー・メイプス本人の手記が元になっており、映画ではケイト・ブランシェットが演じている。
メイプスたちは粘り強い取材を続け、ついにブッシュの詐称を示す決定的な証拠へとたどり着きます。大統領選まで迫っていたこともあり、専門家らによる裏付けも拙速に済ませ、彼女たちは報じてしまう。一大スキャンダルに、ほかのメディアも後追いで次から次へと報じていきます。この状況、日本のマスメディアでもおなじみになっていますよね。最初に文○あたりが足で稼いだスクープを、ほかのメディアが遠慮もなく、ただただ伝聞で報じていく。今では誰も躊躇しなくなってしまったこのことを、メイプス陣営も皮肉交じりに指摘します。
ところが保守派のあるブロガーの指摘により、その証拠のある一部分に穴がある疑惑が浮上する(一読者の指摘でマスメディアに疑義が挟まれる。これも現代的な展開です)。決定的な反証ではないものの、一連のCBS報道に疑惑の目が向き始めます。すると、オセロの白が黒に一斉に反転するかのごとく、今度は各メディアが「60ミニッツII」の不祥事として、この事態を騒ぎ始めるのです。批判の刃はいつしか、メイプス自身にも向けられ、不祥事とは関係ない彼女の個人的なことが暴かれ、誹謗中傷を受けることになります。
ここで立ち止まらなければならないのは、証拠が微妙だとしても、すぐさまブッシュの軍歴詐称の疑惑が消えてなくなるわけではない、ということです。本来、証拠に瑕疵があることと、軍歴詐称の有無は別個に考えられるべきはずです。ところが、CBSを叩く声が大きくなればなるほど、最初にあった疑惑はほったらかしにされていく。このことを指弾するクライマックスのブランシェット=メイプスによる「演説」には鬼気迫るものがあり、そしておそらく、作り手の最も伝えたかったことなのでしょう。
ささいな間違いやミスが見つかるや否や、そこに注目が殺到し、本来追及されるべき問題がいつの間にか影も形もなくなってしまう。そんな事態、どこかの島国でもよく目にすることがあります。本作はそのような、どこにでも起こり得る普遍的で、そして滑稽な事態を映しているようにしか思えないのです。