いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ジョーのあした−辰吉丈一郎との20年−


本作は現役ボクサー、辰吉丈一郎のドキュメンタリーです。ボクシング映画「どついたるねん」を撮った阪本順治監督が、辰吉が網膜剥離で休養中だった95年からの20年あまりを追いかけています。

辰吉といえば、一般層からかなり誤解されていると思うのです。ひとつは、彼がすでに引退しているという誤解です。JBCからはとっくの昔に引退勧告を受けているのですが、あるこだわりから、彼はかなり特殊な形で現役を続けています。

そして、もうひとつの誤解は、彼が「怖い人」だということ。見た目こそ強面ですが、辰吉は別にうさぎだか亀だかどこかのチンピラボクサー兄弟の元祖ではない。かつて「ガチンコ ファイトクラブ」に特別コーチとして招かれた際、おもむろに窓から入ってきて、そのまま窓から出て行くというシーンはいまでも忘れませんが、彼は元来「おもろい関西のおっちゃん」なのです。

本作はそんな辰吉のドキュメンタリー。もちろん、20年間つきっきりでなく、彼の節目節目に阪本監督がカメラを向けてインタビューをするという形をとっています。



(公開初日、なぜか哲学者の西部邁氏から届いた花)


映画は、ボクサー辰吉を英雄として描こうとしているわけでもありません。観ていると、彼のボクサーとしての強さより、その人間的魅力に惹きつけられます。彼の話すトーンとか、間とか、言葉選びは、なんとも人を惹きつけるものがある。

辰吉の20年は、ほとんど彼が息子たちとすごした年月と重なります。ですから、映画には頻繁に子どもたちも登場します。辰吉は別に、息子たちへの愛情を明確に語るわけではないですが、語らずとも、この家族は幸せなんだろうなというのがひしひしと伝わってきます。余談ですが、ヨチヨチ歩きだった次男が、最後の方でプロテストを受けているところなんて、ちょっと「6歳のボクが大人になるまで」を想起しました。

この映画を観ると、辰吉にとっては何よりもまず亡き父親があるのだなと感じます。男手一つで自分を育ててくれた父親。そんな父親にもういちどチャンプになることを誓った辰吉。それだからこそ、彼はなおもボクサーなのです。

ボクサーよりも前に息子であり、父親である。辰吉という人間の本質を教えてくれる一本でした。