いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ザ・ウォーク


本作「ザ・ウォーク」は、無名のフランス人綱渡り師(ワイヤーウォーカー)、フィリップ・プティを一躍有名とした実話を元にした映画です。ジョセフ・ゴードン=レヴィットが主人公、フィリップ・プティを演じる。

フィリップは、パリで大道芸を生業に生きるかたわら、綱渡りする対象を探していた。そして彼はついに夢を見つけます。彼はあろうことか、70年代当時世界一高かった米ニューヨーク、ワールドトレードセンターの2棟にワイヤーをかけ、綱渡りをすることを思い立つのです。

本作はフィリップが夢を叶える顛末です。夢については先日、「有吉ジャポン」(TBS系)に、ステーキけんの社長、井戸実氏がいいことを言っていました。ぼくは井戸氏の信者ではなく、彼の言うこと全て正しいとは思いませんが、番組では「諦めるレベルの夢なんて夢じゃない」「それは夢じゃない。願望です」と話していた。

なるほどたしかに、ぼくらは「夢」を軽々しく口にしすぎている。諦められるくらいなら「願望」でしかないのかもしれない。

逆にいえば、いったん真の「夢」をもってしまえば、諦めることができなくなってしまう。「夢」のために生活も破綻し、命も落としかねない…。本作「ザ・ウォーク」は、「夢」がそんな生易しい美談だけに回収できない、宿主の身を滅ぼしかねない狂気をはらんでいることを教えてくれるのです。

ワールドトレードセンターにワイヤーをかけて綱渡りなんて、絶対に許可がおりません。いえ、そもそも、主人公らは初めから許可をとるつもりもない。成功したとして、全てが全てで違法です。違法であるうえに、綱渡りができるまでの場をセッティングすることも困難を極めます。

主人公は仲間を集め、工夫をし、困難をひとつひとつクリアしていく。いざ本番になっても、予想だにしない事態によってなんども計画が頓挫しかける。しかしそれでも計画が前に進むのは、主人公の心に、諦められない「夢」という名の「狂気」が宿っているからでしょう。

だから、ぼくはこのストーリーを単なる美談だとは受け取ってほしくはないのです。「夢」を諦めないのは、諦めきれないからであり、そこには全く微笑ましくなどない「狂気」が必ずあります。見果てぬ夢を見るその人が、現代のドン・キホーテだと笑い者になるのか、それとも夢追い人として大衆の声援を受けるのか。もしかしてそれはほんのちょっとの違いでしかないのかもしれません。