いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ナイトクローラー


ロスで孤独に暮らす中年男、ルイス・ブルームは、後ろ暗い仕事で糊口をしのぐ毎日だ。そんな彼がある日、偶然知った「ナイトクローラー」という仕事に目をつける。それは報道専門のパパラッチで、真夜中に起きた事件事故を撮影しては地元のケーブルテレビに売りさばいていく生業だった。

ブロークバック・マウンテン』『ゾディアック』『複製された男』などで知られるジェイク・ギレンホールが主演する『ナイトクローラー』は、彼の「顔芸」がめちゃくちゃ生きた、彼の代表作になるといっても過言ではない快作=怪作だ。


テレビの視聴者が報道番組にもとめるのは、退屈な行政の話題などでは毛頭ない。彼らは刺激的なビジュアルと、それに付随する悲劇的な物語に飢えている。ルイスはそれらを求め、警察無線を傍受しながら夜毎街を徘徊する。同業者とのスクープ合戦も熾烈を極め、ルイスは次第にとんでもないことをしでかしていくことになる……。

メディア(の中の人)がスクープの甘味に誘われ狂っていく展開は、ネットメディアで実際に起きた騒動を元にした『ニュースの天才』に似ている。

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まさにこの映画は「パパラッチ版ニュースの天才」といえるかもしれない。


しかし、注意すべきは、この『ナイトクローラー』は「マスメディアがー」とか「視聴率至上主義(ネットでいえばPV至上主義)がー」といったありふれた「メディアの暴走に対する警句」に主眼をおいているわけではないこと(それがないわけではないが)。

決定的に違うのは『ニュースの天才』が「狂わされた弱い男」を描いているのに対して、『ナイトクローラー』はそんな生易しい狂気ではない。なぜならルイスは、マスコミの中に身をおいたから狂ったわけではないからだ。冒頭で早くも明かされるように、すでに彼は軽くタガが外れた狂人なのである。彼は「メディアだから狂った」のではない。「狂ったやつがメディアにやってきた」のだ!

そのことは、彼がナイトクローラーとして初めて遭遇した事件現場のシーンが象徴している。彼はカージャックの現場で、初めてにもかかわらず血まみれの被害者に間近から平然とカメラを向けるのだ。同業者らが超えない一線を軽々と超えて彼が手に入れたアンモラルな映像は、のちに得意先となるケーブルテレビの雇われディレクターにたいそう気に入られる。

実はこの時点で、すでに映画の大枠の構造は出来上がっている。あとは彼の中にある「やばいもの」が同心円上に広がっていき、より破滅的に、よりおぞましくなっていくプロセスといえる。


だから、この映画の何よりもの魅力は、ギレンホール演じるルイスその人である。LAの陽気にまったく似つかわしくない白い肌にこけた頬、そして怖いほどのギョロ目。ギレンホールはもともと眼力の強い俳優だったが、なんでもこの映画の撮影に際して12kgの減量したそうで、その効果が存分に出ている。

キャラクター的には一応「意識高い系」である。「ネットで学んだ」とするビジネススキルを駆使し、本人は上手くやっているように思っているのだが、他の人とは致命的にズレているのが物悲しい。彼は自身のセールスポイントを、「勤勉で、志が高く、執念深い」と念仏の如く繰り返す。実はこの繰り言は間違ってはいない。間違ってはいないのだけれど、彼の場合はそれをかなり邪悪に、残忍に、冷酷に拡大解釈しただけなのだ。

この映画に魅せられぼくは、最近ではルイス・ブルームが別の職業についたらどんなことをしでかすかばかり考えている。日本の牛丼チェーンに就職したら「勤勉で、志が高く、執念深い」彼は何をしでかすか? ブラックなIT企業だとどうか? プロ野球選手でもやばそうだ。あなたもきっと、この映画をみたら彼の危ない魅力にみせられるだろう。