いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】青天の霹靂

「定番」だとか「あるある」だとかいうのは、コンテンツを語る上ではネガティブなイメージがつきまとう。とくに人の涙腺崩壊を狙った感動系映画はその傾向が強く、その原因は人類の感動するパターンが貧困だからなのだが、大半は陳腐に終わってしまう。
けれど、定番が駄作になるのはなにも定番だからだけではない。そもそも定番をきちんとやり切れていないことこそが、問題なのだ。そんなことを教えてくれるのが、本作『青天の霹靂』である。

大泉洋主演、柴咲コウ共演のタイムスリップ(?)映画。劇団ひとりの初監督作で、自身も出演している。
中年男の晴夫は、場末のバーでマジシャンをして糊口をしのいでいるが、大成する見込みがなく人生の意味さえも見失いかけていた。そんなおり、失踪していた父親の遺体が見つかる。遺体発見現場となった父のダンボールハウスで、父親に抱かれる赤ん坊のころの自分の写真を目にした晴夫。思い描いた未来とかけ離れた境遇に思いを馳せ、思わず慟哭していたそのとき、彼は青空の下かみなりに打たれてしまう。目覚めたとき彼がいたのは1974年。自分が生まれる前年だった……。


ここまでがアバンタイトルなのだけれど、ほぼ完ぺきに思える。セリフで語らせすぎず、巧みな演出によって過不足なく主人公の現状を伝えていき、ここぞというところで堰を切ったように本人に思いを吐き出させる。その手腕は、到底新人監督とは思えない。
正直な話、本作を観て「今までに見たことがないものをみた」という感想をもつ人は少ないと思う。おそらくはどこかで見たことがあるような設定、展開のパッチワークであるのは否めないし、そのメッセージが『世界に一つだけの花』と何がちがうのかといえば、ぼくは口ごもる。
けれど、そうしたありふれた話をクリアカットにまとめ、より効果的にみせるストーリーテリングの手腕が圧巻なのだ。テンポもよくて90分強なのだけれど、それでも強調すべきところはきちっと強調し、ウエットにすべきところはとことんウェットにする。泣きどころのセリフもたまらなくいい。


サイテーな両親の間に生まれたのだから、自分がサイテーになるのは仕方ないという諦念をある種のエクスキューズにして生きていた主人公だったが、そうした姿勢は、自身の出生の秘密を知ることで根本的に突き崩されることになる。ぼくのような親不孝者には身につまされる一作である。


ちなみに、本作は昨年公開だっため、先ごろ発表された日本アカデミー賞に該当するはずだが、最優秀作品賞はおろか優秀作品賞にも入っていない。ネームバリューと話題性で決まるこのジャパンという国の映画賞のレベル、高すぎる!