いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】U Want Me 2 Kill Him/ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒム


「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがあるが、ネットの普及により物理的な距離の重要性がますます縮小する今の時代は「近くの親戚より遠くの他人」ということわざさえ、成り立つかもしれない。
われわれ不合理な人間は、本来は得体のしれない存在のはずの匿名の他人と意志が通じたとき、よりいっそう「真実」に触れたような錯覚を起こす。その際たる例が「ネットde真実」なのだろう。
「遠くの他人」の不気味さを再確認させてくれるのが本作「U Want Me 2 Kill Him」だ。2003年にイギリスで実際に起きた、あるネットを介した犯罪を再現したサスペンス映画である。


映画は、マークという少年が「大義」によってある殺人を犯すという物々しい描写からスタートする。坊主頭で生真面目そうな表情をした彼の姿は、まるで殉教者のようだ。


そこから遡ること3ヶ月、マークはクラスの人気者で、大義とも殺人とも関係のないような満ち足りたハイスクールライフを満喫していたことが明かされる。彼の身に、その3ヶ月の間に一体何があったのか。


話の発端は、レイチェルという彼のチャット上の"恋人"。チャット恋愛で仲が深まった彼女から、いじめに遭っている自分のクラスメートで彼女の弟のジョンを守るようにマークは頼まれる。惚れた女の頼みであると快諾するマークは、ジョンの敵を撃退した上で彼と次第に仲良くなっていく。


そんなある日、マークはジョンから、姉レイチェルが彼氏のDV男・ケビンに殺害されたことを明かされるのである。復讐心に駆られるマークは、次第に「普通の日常」から道を踏み外していくことになっていく……。


唐突にMI5の女捜査官が出てきたりテロとの戦いになったり、ここから荒唐無稽な展開になっていくのだけれど、この荒唐無稽さには実はちゃんとした意味がある。多くの人が途中で気づくと思うが、ブライアン・シンガーが製作総指揮に名を連ねているこの作品は"ネット時代の『ユージュアル・サスペクツ』"なのである。


この映画は、「遠くの他人」をとおしてわれわれが「真実」を得てしまうことがいかに簡単かを教えてくれる。本来いかがわしい存在であり最初は疑ってかかるが、彼らと意思疎通できたと思えば一転、われわれは必要以上に相手に親近感を抱いてしまう。

マークくん「これがマスゴミの隠していた"真実"なのか……!!!」
(※カギカッコは筆者による創作)


いったん相手を信頼してしまえばあとは簡単だ。「真実」の足りない部分は、騙される側が勝手に補っていくことさえある。そうした嘘の積み重ねで、嘘っぱちの「大義」は人に簡単に充填されてしまう。恐ろしい。


先に『ユージュアル・サスペクツ』をあげたが、この映画の結論は一歩だけその先を行く。一件落着したあと、実は騙されていた側よりも騙していた側の方が「重症」であることが明かされるのだ。
マークくんはちょっとザルすぎるのではないかとも思うが、2003年という時代を勘案すると、もしかしたら起こりうるのではないかというリアリティがある一作だ。