いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅


変化はないけどほっこりする、A・ペインの映画

世界の危機を救うでもなく、人類の敵を殲滅するでもない。また、主人公が憎っくきライバルを倒して最愛の人を手に入れたり、億万長者になったりもしない。
アレクサンダー・ペインの映画はそうした「大きな変化」は描かないけれど、始点から終点まで追いかけた鑑賞者に胸がほっこりするような余韻をいつも残してくれる。
本作は年老いた父親と息子による、いわゆるロードムービー。『サイドウェイ』と同時期に計画されていたそうだけれど、さすがに2作連続でロードムービはねーだろ、ということで延期になったそう。

ありふれた宝くじ詐欺から始まる、家族のルーツのストーリー

もうろくしたウディのもとに、100万ドルの当選を知らせる手紙が届く。そんなの詐欺だという次男デイビッドや妻ケイトの反対を押し切り、彼は住んでいるモンタナ州から隣の隣のネブラスカ州への歩みを止めない。根負けしたデイビッドが彼を車に乗せ、ネブラスカを目指すことに。


旅の途上でトラブルにあうことで2人は、ウディの生家があり、妻ケイトと彼が出会った故郷の街ホーソーンに立ち寄ることになる。
父の故郷でデイビッドが出会うのは、ありふれた、けれど彼にとってはかけがえのない家族の歴史だ。噓から出た真というか、ゴールにはもちろん100万ドルなんて待っていないだけれど、彼がその途上で見つけるのは、彼にまで集約されるルーツなのである。

そこでついついウディが「100万ドル当選」を自慢してしまい、噂は故郷の街を駆け巡り、彼は一転ピンチとなる。

核家族という不思議な共同体

この映画では他に、家族(特に核家族)という不思議な共同体にも焦点が当てられている。
ぼくは声を上げて爆笑したのが、バーでウディがデイビッドにケイトとの馴れ初めを語るシーン。
別れた彼女との結婚に踏み切れなかったというデイビッドに対し、ウディの語った馴れ初めの、まー、そのロマンのないこと! 結婚は「あいつ(ケイト)がしたいと言ったから」で、子どもについては「そりゃやったらできるだろ!」である。デイビッドの唖然とした顔も印象的。愛情という感情がまず最初にあって家族ができるのでなく、家族という体をなせば家族になるのである。こんな人からすれば、結婚の不確実性の前に立ちすくむ現代の若者は、ばかばかしいのかもしれない。
ウディとケイトの関係性が絶妙で、あんなに悪態をついていても、肝心なときには彼のことをちゃんと守るのである。ここらへん、50年ちかく連れ添い、もはや単純な好き/嫌いでは語れない関係なのが伝わってくる。

もちろん基本的にはコメディ映画

過去のペイン映画と同様、そこかしこにコメディ要素があって、もちろん笑える。
ぼくにとってこの映画での一番の発見は、アメリカの老人もテレビをボーッと見て過ごしている、ということ。ある場面で、老人の面々がテレビを見ながら喋るワンカットのシーンがあるのだけど、うわぁ、こんなリアルな間を出せるんだと感心してしまった。


冒頭で書いたとおり、何かが大きく変わり、主人公たちの人生が好転するわけじゃない。
けれど、旅の行きと帰りではみえない何かが大きく変わる、そんな映画になっている。