いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】アミスタッド

アミスタッド [Blu-ray]

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19世紀半ば、スペイン領キューバに向かっていた奴隷船「アミスタッド号」の船上で、奴隷たちが反乱を起こした。すぐにアメリカ海軍に拘束され、米国本土に運ばれた彼らだったが、彼らの処遇をめぐり、「返還」を求めるスペイン政府、「所有権」を主張する米海軍、そして彼らの解放を訴える奴隷解放論者らによる、三つ巴の訴訟が始まった。
1839年に実際に起きたアミスタッド号事件を題材に、スティーブン・スピルバーグがドリームワークス設立後の自身第1作として手がけた一作。


この後、名優の地位へと上り詰めていくことになるマシュー・マコノヒーが若き弁護士を、モーガン・フリーマンがおまえいっつもそれだよなという「賢者」役を、そして、アンソニー・ホプキンスがあとで述べるくっそカッコいい元大統領の代議士ジョン・クィンシー・アダムズを演じている。


シンドラーのリスト』『戦火の馬』もそうだけど、スピルバーグの歴史物にはハズレがない。
この映画も手堅い傑作だけれど、実は彼、2012年にちょうど「この事件の数年後」となる南北戦争を描く『リンカーン』も撮っている。

リンカーン』とこの映画に共通して強く感じるのは、「オレたちの国がどういう壁に阻まれ、どうやってそれを乗り越えてきたのか?」ということに対しての、スピルバーグの強い自負心だ。


印象的なシーンは、二つある。
一度は奴隷解放の判決が下ったはずが、奴隷制存続を望む南部の差し金で政府側が上訴し、裁判はやり直しに。当然、解放されると喜んでいた奴隷のリーダー格シンケは激怒する。彼が燃え盛る炎を背景に全裸になり、「一度決めたことを撤回するって、おまらの国はどうなってんだ!?」(意訳)とブチ切れるのである。これは、スピルバーグ自身の怒りのように感じる。


そして二つ目は、クライマックスのアンソニー・ホプキンスによる最高裁法廷での名演説。
「この国の父にお前ら顔向けできんのか?ああ?」「奴隷とか、そういう古い制度に嫌気がさして俺らはヨーロッパを飛び出したんじゃねーの?」とか「南北戦争が起きるなら、それが最後の独立戦争であって、それが元で滅びるならしかたない」とか(すべてぼくの意訳だが、だいたいそんな感じ)。
もうさ、なんかズルいと言いたくなる域のカッコよさだ。最初は裁判への参加を渋っていたのに、最終的にこの人が一番いい感じで持っていく。こんな弁護士を雇いたい。


もちろん、そうした綺麗な話ばかりではないが、アメリカが理念として何を追い求めてきたかが体感できる映画になっている。
ただ、この作品について、スピルバーグが母国の歴史への敬愛のみを目的に撮ったとは、どうしても思えない。
理念が上手く現実にならなくても、理念は理念として永遠不変であり、人はそこに何度でも立ち返ることができる。この映画は確実に、現代の鑑賞者に向けて作られている。