いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ベイマックス 85点

首都圏のあちこちで偽ベイマックスが目撃されたが、ついに本編が公開。

想像力かきたてる背景描写

実はディズニーが買収したマーベル・コミックの作品が「原案」にあるようなのだけど、調べてみるとこれが本作と似ても似つかぬもので、ほとんどディズニーオリジナルといっていいんじゃないだろうか。

高校を飛び級で卒業した少年ヒロは、違法なロボットファイトで小銭を稼ぐ発明の天才だ。そんな彼を見かねたのは兄のタダシで、ヒロに大学への進学を勧める。
苦心の末に生み出した新発明によって教授を唸らせ、見事入学許可を得たヒロだったがその矢先、原因不明の爆発事故で彼は兄を失う。悲しみにくれるヒロの元に現れたのは、兄が開発した介護ロボットのベイマックスだった……。


前作『アナ雪』では卓越した雪や氷のCG表現が印象的だったが、東京とサンフランシスコがモデルになっているという近未来(?)都市が舞台の今作は、背景すべてが魅力にみちている。ストーリー性を感じさせる風景は屋内屋外をとわず、鑑賞者の想像力をかきたて、まったく飽きさせない。

戦わないロボット・ベイマックス

本作が語りかけるのは、悲しみを癒やすのは何か? だ。それを象徴するのが、愛くるしいベイマックスの存在で、ネットで一時もてはやされた「ぽっちゃり系女子」と同様、安心感を与える白くふくよかな体型とその独特のトボトボ歩きはそれだけで和んでしまう。劇中では「バララララララ〜」という鉄板ギャグも披露される。そしてなにより、彼の使命はオーナーであるヒロの心と体の健康を守ることであって、基本的に戦闘には向いていない。

そんなベイマックスが、兄の死の真相を追うヒロの行動に従うのは、彼の心の回復を思ってのことなのだ。
けれど事態は全く逆に進む。兄を奪われたことへの復讐心にかられたヒロの行動は心に平穏をもたらさず、なにより彼は、彼の大好きだった兄が全く望んでいない、むしろ反対するような仕方でベイマックスを使う過ちを。それが、本作の黒幕と相似形にあることは言うまでもない。

そうしたメッセージからか、映画は戦闘シーンがあるのに、なるべく暴力的な描写を避けているように思える。なによりもヒロと彼の味方による人への暴力が、少ない。代替行為として、その人物の所有物や建物が木っ端微塵になっていて、非常に巧妙だと思う。最後の山場が「やっつけるシーン」ではなく「救うシーン」になっているのは、その現れだろう。

賛否が分かれそうな結末(※ネタバレ)

賛否がわかれそうなのは結末で、ベイマックスが生き返るというのは果たしてアリなのかナシなのか? ヒロの成長譚ととらえるならばぼくはナシに思えたが、知人からは「ベイマックスはヒロの健康を守るために存在するのだから、生き返って問題ない」という反論があった。
なるほどたしかに、彼は未来への帰還によってのび太の成長を促すドラえもんではないわけだ。
じゃあ、ベイマックス復活は認めよう。では、あの5人+1体がその後もスーパーヒーロー戦隊としてバリバリ活躍するという筋書きはどうだろう。ぼくが面白さを感じたのは、ストーリーの冒頭で「天才的な科学の才能をヒロが持て余している」という部分だったのだ。そして、なによりもヒロの兄・タダシは、科学者としての弟の才能を見抜いていたのである。
それらに触れることを回避する結末は、なんだかちょっと安易にも見えてしまう


とにもかくにも、厳しい現代社会に日々もまれる「“泣いてもいいんですよ”って言ってほしいのはオレ/アタシの方だ」という大人は、必見の映画といえる。