いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】楽園追放−Expelled from Paradise− 90点

はるか未来、人類の98%が肉体を捨て、データとなって電脳世界「ディーヴァ」上で暮らしていた。
「セントラルセッター」と名乗る存在からの「ディーヴァ」内へのハッキングが頻発し、捜査していたのは保安官のアンジェラ。
アクセスの発信源が地球=リアル・ワールドであることが突き止められ、アンジェラは仮の肉体で地球へ降り立ち、エージェントのディンゴとともに「セントラルセッター」の行方を追うのだが……。


同じ電脳空間をモチーフにするアニメで真っ先にに思い浮かぶのは攻殻機動隊シリーズだが、情報密度が高く、様々な専門用語(らしきもの)が飛び交い、一度の鑑賞では到底把握しきれない攻殻に比べれば、圧倒的にわかりやすい工夫がなされている。
たとえば、要所ごとに登場人物らがこれから主人公らが何をすべきかというミッションを、会話の中で明確に提示してくれるわけだ。これが非常に鑑賞者のストレスを軽減していると思う。


中盤は凄腕ハッカー「セントラルセッター」を追うアンジェラとディンゴの凸凹コンビによるバディムービーの様相を呈し、終盤にかけては激しいロボットアクションが展開されるなど、栄養満点の盛り沢山だが、伏流しているテーマは「人間とは何か?」だろう。
意思だけの存在となった“人類の進化系”「ディーヴァ」の住人であるアンジェラは、肉体という不自由にしがみつく旧人類のことが理解できない。三大欲求にとらわれ、ときには病気をして苦しむことにもなる肉体は、人類の足かせでしかないのではないか? 
それに対してディンゴは、肉体を通じてこそ感じれるノイズが快楽になることだってあることを、例えばロックンロールを通して伝えようとする(この他に酒やタバコというのも、この系列として捉えられるだろうか?)。
そして同時に彼は、アンジェラが直視しない「ディーヴァ」の恐ろしい実態についても告発する。このあたりは、現実のSNS上で広がっている「評価経済」を極端にしたディストピアだったりするのかなーと思ってみたり。


「セントラルセッター」の正体、そしてその目的は、物語の感興をそぐのでもちろん伏せておくが、物語の最後に用意されるのはやはり、肉体をもつ人類、肉体を持たない「ディーヴァ」の住人とともに、「人間とは何か」の問題を射程に入れた、軽やかな解答だ。
アンジェラが地球突入前の姿とあんまり代わり映えしてねぇじゃん! とか、シャトル発射直後のディンゴの弾き語りがダセーよ! など、ちょっとした物申したいところはあるのだけれど、鑑賞者の根幹を揺さぶる問いを投げかけつつ、同時に飽きさせることないエンターテイメントを軽やかに両立した(どちらかに成功してもどちらかに失敗した例はよくある)、良作だと思われる。