いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】新しき世界 80点

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ある雨の夜、韓国の中堅企業・ゴールドムーンの初代会長ソクが交通事故で急死する。もともと複数の暴力団を取りまとめたグループ企業のため、会長の突然の死によって後継者問題が勃発。それぞれの組の元組長であるジュングとチョン・チョンが、後継者の席を争うことになるとみられた。
ところがチョン・チョンの側近イ・ジョンジェの正体は警察から送り込まれた潜入捜査官で、警察上層部は彼を使い、後継者問題への介入を画策する。その作戦は「新世界プロジェクト」と名付けられた……。


公開時、ある特定の層から熱烈な支持を受けていたとことが記憶にある、韓国のヤクザ映画。
ガサツだが兄弟思いの熱い男チョン・チョンと、冷徹に任務をこなすジョンジェ。まさに炎と氷の関係で、掛け算するにはもってこいなのだろう。数々の死線をくぐり抜けてきた二人が、組織の内部抗争とそして、警察の企みによって引き裂かれようとしている。ああ、無情。
いざ見てみると、2人だけでなく、全体として背広姿を観賞するためのような映画で、2010年代では5本の指に入るほどの「背広観賞用映画」である。全身黒服が一人ですっと佇む「アジョシ型」も絵になるが、こうした群れからなる「アウトレイジ型」も、見ていてたまらなくなるカッコよさだ。
映画でスーツはもう一つ重要な要素をもっていて、組織内論理を体現している。ジュングは逮捕されたことでスーツでいられなくなるし、最初から組織の外部にいて風見鶏のように主を変える辺境の地からやってきたヒットマンたちは、そもそもスーツを着ない。それはスーツ=組織論理=仁義の体現だからだ。


命令されるたびに表面上はプンスカしているためわかりにくいが、主人公は実は終盤まで出来事の外側にいてほとんどストーリーに介入していない。そのためビミョーな存在感なのだが、彼、そしてチョンチョンには終盤でさすがに見せ場がある。どうでもいいが、「死んだ人の置き土産パターン」(「北の国から'98時代」における草太兄ちゃんのテープ的な)はズルい。そりゃ泣いてまうわ。


この映画について、ちょっと別の角度から光を当ててみると、暴力団組織という“生き物”の「免疫機能」を描いているともいえる。
その機能の別名は「義兄弟」だ。チョン・チョンとともに修羅場をくぐり抜けてきたスパイのジョンジェが、最終的にどういう結末にたどり着いたのか。組織を操縦するために警察が送り込んだはずの“ウイルス”が最終的にどうなったか、そして、送り込んだ側の警察がどれだけの損害をこうむったか
もちろん、血は流れた。組織の人間が何人も死んだが、結果的に組織体系は頭をすげ替えることで存続した。それを考えたら、「義兄弟」というシステムは激烈な、そしてしたたかな「免疫機能」である気がしてくるのだ。