いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】気球クラブ、その後 85点


気球クラブ、その後 [DVD]

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SNSの普及でぼくらが得たものは数限りないが、一方で失ったものも少ない。そのうちの一つが「別れ」だ。SNSによって、ぼくらはいつでもどこでも薄く繋がっていられる。けれどそれは同時に「別れ」を失ったといえるのではないか。
そんなことを考えさせられるのが、本作『気球クラブ、その後』だ。『自殺サークル』『恋の罪』『冷たい熱帯魚『地獄でなぜ悪い』TOKYO TRIBE』などなど、狂気に満ちた作品を撮ったのと同一人物とは思えない、園子温監督による清々しく、切なくもある青春群像劇。


5年前に熱気球サークル「うわの空」で知り合った若者たち。いまではほとんどサークルから足が遠のき、ダラダラと日々を過ごす彼らだが、リーダー村上の事故死によってもう一度集まることになる。
知り合ったきっかけはサークルだったものの、次第にそこへのコミットはおざなりになっていき、そこでつながった人間関係だけがゾンビのように続いていく……というのは結構リアルだ。
ゾンビのような人間関係を象徴するのが、本作では今はなつかしのガラケーと、その中に登録される電話帳だ。映画は当初、ガラケーによる若者たちの刹那的なやり取りを、目まぐるしいカットバックでみせていく。


彼らがそんな日々に区切りをつけるきっかけは、リーダーの死だ。弔うというより人の死をネタにして酒盛りしてるだけじゃないかという嫌悪感も湧くところがあるが、それでもどうしても嫌いになれないのは、背景に共感し得るメッセージ性があるからだろうか。
メンバーは、互いのケータイからメモリーを消去し合っていく。それは、お互いをあえて会えなくする別れであり、そして本作は、そんな別れを成長なのだと言い切る。
役者では、すぐヤラせてくれそうな若い娘を演じた川村ゆきえもいいのだが、それ以上にリーダーの彼女を演じた永作博美がズルいくらいによい。浮気性の大人のお姉さんという感じで出てくるが、5年前にあったことがどんどん明かされていくにつれ、彼女には彼女なりの純情があったというのがわかり、泣ける。
ほんと、この映画では気球が比喩として効きまくっている。どこまでも飛んでいってしまいそうなリーダーという気球、中途半端な高さでふわふわ浮遊している若者たちという気球、そして、リーダーが地上(=地に足の着いた生活)に降りてきてくれることをひたすら待ち続けるみどり……ああ、せつない。そして、畠山美由紀がカバーする『翳りゆく部屋』もめちゃくちゃいい。


リーダーの「何かに取り憑かれたように見果てぬ夢を追いかける」キャラや、活気ある若者たちの集団劇など、その後の園作品の片鱗を随所にみられるが、先述したように本作は観客が安心して寄り添うことができるという意味で、“らしくない良作”といえるだろうか。
そして、ガラケースマホに持ち替えたぼくらである。メモリーひとつ消したところでどうにもならないほどにネットに絡みとられたぼくらは、永遠に地上を降りられなくなってしまった壊れた気球の集団なのかもしれない。