いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】ルポ 介護独身

ルポ 介護独身 (新潮新書)

ルポ 介護独身 (新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
自分のことだけを考えていれば良かった生活に、ある日突然、親の介護が立ちはだかる―。非婚・少子化と超高齢化が同時進行する中で、「介護独身」とでも呼ぶしかない人々が今、急激に増えている。他に家庭を持つきょうだいはあてにならず、「何でも一人」に慣れているが故に、介護も一人で抱え込んでしまう彼ら。孤立と無理解の中でもがく日々に、自身、介護問題に直面しているルポライターが向き合う。

作家・井上靖の自伝的小説の映画化『わが母の記』では、役所広司が演じる小説家とその家族が、樹木希林が演じる母親の介護に家族総出で奮闘する姿が描かれている。家族総出でも大仕事である。それがもし、配偶者さえいない独身の身に降り掛かってきたら……。それは遠い未来の話でなく、現に起きていることなのだ。
本書『ルポ 介護独身』は文字通り、独身者が親を介護するという現実を追ったルポタージュ。自身親の介護を経験した著者が、複数の男女へのインタビューをもとにして綴っている。


登場する複数の人が、よくある子どもによる要介護の親の殺害事件のニュースは、自分が登場人物になっていてもおかしくなかっただろう、と語っている。彼ら彼女らの回顧にそこまでの悲痛さはない。けれど、一時は親を殺める一歩手前まで追いつめられていたことが思い知らされる。


介護で自分の人生設計を諦めなければならなくなった人や、貯金がつきて親の年金を生活の糧にせざるを得なくなった人もいる。バリバリ働いていたはずなのに、親の年金に頼るようになるなんて、誰が予想できるだろう。親の死後も、彼らがかつてのキャリアに復帰することは現状難しい。


もっともこうした影響は、既婚者の介護者だって被るのかもしれない。介護者が独身だろうと既婚だろうと、介護は介護なのだ。
著者は、「介護そのものが『孤立』を生じさせる装置を内包している」(p.134)という。介護者ー要介護者を、実の家族らからも隔離してしまう。そんな介護の困難さの一端を、本書は明るみにする。
不思議なことに、登場する介護独身者にはみな、頼れるはずの兄弟姉妹がいるのだ。けれど、なぜか独身の彼らが介護を一手に引き受けることになっていく。個人的には、もう少しそこに突っ込んでみてほしかった。


介護独身者という本書独自の観点でいえば、興味を引いたのは彼らの結婚に対する考え方だ。
介護は彼らの結婚をも躊躇させる。多くの人は、固く意志を決めて結婚しなかった、というわけではない。もうちょっと、もうちょっとと先延ばしにしているうちに、親が倒れて介護が必要になる。親の介護が理由で別れたというケースは少ないが、中には交際相手に親の面倒を見るのは嫌だと言われ、別れたという男性も出てくる。
自由な時代を生きるわれわれは、著者が言うように「好きだから結婚」を夢見ている。だが、それを突き詰めていった先にあったのが晩婚化と少子化であり、年老いた親の介護により再び「家の事情」で結婚できない時代がやってくるのかもしれない。そんな皮肉な状況が、今後ますます増えていくのだろう。


本書は途中、いざ親の介護が直面したときの為のマニュアル的な内容にもページを割く。親の様子が気になったときからの手順を、簡略にだが教えてくれる。また、在宅医療についても紹介している。


巻末では、相手と互いのライフスタイルを尊重し合える「事実婚」を、介護者の孤立を防ぐために勧めている。本書を読むとわかるのは、介護は突然やってきて、一度始まったら止めようがないということだ。新聞の片隅で悲惨な事件の登場人物にならないためにも、本書は一読しておく価値はあるだろう。